海賊の掟

 海賊たちには、船内の秩序を守るための行動規範や同意書があったという記録がある。その内容は、戦利品の分配法や、仕事中に負傷した者の処遇、規律に違反した者への処罰、捕虜の扱いなどだった。なかには、戦いで手足を失った者に対する補償を定めたものもあった。

 掟を破った者が、板の上を歩かされた可能性は低い。これは小説『宝島』などから生まれた作り話であって、実際にこのような慣習があったことを示す歴史的証拠はほとんどない。しかし、板を歩くよりももっと残酷な処罰が実際にあったことは知られている。罪人を縄で縛って船の片側から海へ落とし、船の下をくぐらせた縄を反対側から引いて罪人を引き揚げる。罪人は、船体に貼りついているフジツボなどに体をこすりつけられて失血死したり、溺死する。他にも、船から投げ出したり、鞭で打ったり、木も生えない無人島に置き去りにするという処罰もあった。(参考記事:「ロビンソン・クルーソー「実在神話」の真相」

海賊船

 海賊は、スペインのガレオン船や、ジャック・スパロウのブラックパール号のような立派な船ではなく、小さくて操作しやすい船を好んだ。小さい方が、大きな艦船に追いかけられても逃げやすい。16~17世紀にかけて海賊が最も多く使用していた船は、スループやスクーナーと呼ばれる小型の帆船だった。どちらのタイプの船も、速くて喫水が浅いため、浅瀬へ逃げ込みやすい。

17世紀にスペインで使用されていたガレオン船「ネプチューン」号のレプリカ。(PHOTOGRAPH BY VOLODYMYR DVORNYK/SHUTTERSTOCK)
17世紀にスペインで使用されていたガレオン船「ネプチューン」号のレプリカ。(PHOTOGRAPH BY VOLODYMYR DVORNYK/SHUTTERSTOCK)

 海賊といえば、黒地に頭蓋骨と交差した2本の骨が描かれた旗のイメージが強いが、実際にそのような旗を掲げていた海賊は多くない。ただ、海賊の黒い旗には、命だけは助けてやるという意味があり、赤い旗には流血と確実な死をもたらすという意味があった。「黒ひげ」として知られた18世紀の海賊は、骸骨が槍を手に持って血を流す心臓を指し示す絵が描かれた旗を使用していた。(参考記事:「海賊「黒ひげ」が読んだ探検本?沈没船から発見」

 海賊たちはしばしば、複数の国の旗を用意しておいて、どこかの国の船に出会うと友好的な旗を掲げて相手を油断させるという戦略を使うことがあった。相手の船は、掲げられた旗を見て安心して近づいてくる。攻撃できる距離まで近づいたところで、海賊は自分たちの旗を掲げ、相手の船を襲った。

海賊の姿を正しく描いているものがあるとすれば

 大衆作品に登場する中で、現実の海賊の姿を正しく描いているものがあるとすれば、それは彼らが使用する様々な武器だ。カットラスという短剣は、刃がわずかに湾曲し、狭い船の中で戦うのに便利だ。また、動物の肉を切る際にも使用できる。

銃身と銃床を短くしたマスケット銃。接近戦で使いやすいように改良されたものと思われる。(PHOTOGRAPH BY KENNETH GARRETT)
銃身と銃床を短くしたマスケット銃。接近戦で使いやすいように改良されたものと思われる。(PHOTOGRAPH BY KENNETH GARRETT)

 ブランダーバス(ラッパ銃)と呼ばれる銃も、海賊が好んで使っていた。銃口が広がっていて、複数の小さな鉛の弾が発射される。海賊船には大砲も備え付けられ、普通の砲弾のほか、2個の弾を鎖でつなげた鎖弾や、小さな弾がいくつも詰まったブドウ弾が使われた。海賊の大砲にやられた船は、ひとたまりもなかった。

 本や映画など大衆作品で描かれる海賊とは別に、現実の海賊は2000年以上も前から、略奪者として様々な形で船乗りたちを恐怖に陥れてきた。最近では、ソマリアやマレーシア沖での被害が報告されている。それらは「黄金時代」の海賊として描かれる姿とは全く異なる見かけをしているかもしれないが、今も昔も、海賊が人々を脅かす存在であることは間違いない。

18世紀の画家フォルトゥニーノ・マタニアによる絵画。2人の水夫を捕らえようとする女海賊アン・ボニーと仲間の男が描かれている。(IMAGE COURTESY OF HISTORIA/SHUTTERSTOCK)
18世紀の画家フォルトゥニーノ・マタニアによる絵画。2人の水夫を捕らえようとする女海賊アン・ボニーと仲間の男が描かれている。(IMAGE COURTESY OF HISTORIA/SHUTTERSTOCK)

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[ナショナル ジオグラフィック日本版サイト2022年6月27日掲載]情報は掲載時点のものです。

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