およそ1億年前に現在のアルゼンチンに生息していた獣脚恐竜、メラクセス・ギガスは、巨大な体や頭の割に小さな腕を持っていた。(ILLUSTRATION BY CARLOS PAPOLIO)
およそ1億年前に現在のアルゼンチンに生息していた獣脚恐竜、メラクセス・ギガスは、巨大な体や頭の割に小さな腕を持っていた。(ILLUSTRATION BY CARLOS PAPOLIO)
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 およそ1億年前、現在の南米アルゼンチンのパタゴニア地方を歩き回る大型肉食恐竜がいた。体重4トン以上、全長約11メートルもあるこの新種の恐竜には、大きな頭や小さな腕(前肢)など、ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex、以下Tレックス)と共通する特徴があった。

 7月7日付けの学術誌「カレント・バイオロジー」で発表されたこの新種の恐竜はしかし、ティラノサウルス類ではない。カルカロドントサウルス科というまったく違うグループに属し、この科はTレックスが登場する数千万年前に絶滅している。つまり、あの小さな腕は別々に進化したものであり、これまで考えられてきたよりも利点の大きな進化だった可能性がある。

「この不釣り合いに小さな腕には何かしらの機能があったと確信しています」と、今回の論文の著者で、アルゼンチン、リオネグロ国立大学の古生物学者であるフアン・カナーレ氏は述べている。「交尾中オスがメスをつかむなど生殖行動に使ったり、休息した後や転倒したときに体を支えて立ち上がったりしたのかもしれません」(参考記事:「実は凶器? ティラノサウルスの短すぎる腕に新説」

メラクセス・ギガスが発見されたアルゼンチンの発掘現場。(PHOTOGRAPH BY JUAN I. CANALE)
メラクセス・ギガスが発見されたアルゼンチンの発掘現場。(PHOTOGRAPH BY JUAN I. CANALE)
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 新種は、米国のテレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作小説『氷と炎の歌』に登場するドラゴンにちなんで、「メラクセス・ギガス(Meraxes gigas)」と名づけられた。

 メラクセス・ギガスの発見は、カルカロドントサウルス科についての理解を深める助けになる。「サメの歯を持つトカゲ」という意味の名を持つこの科には、史上最大級の肉食動物ギガノトサウルス(Giganotosaurus)も属している。

「今回の発見は、この恐竜グループの多様性の隙間を埋めるのに役立ち、進化や当時の生態についてより正確に知る手掛かりになるでしょう」と話すのは、米カーセッジ大学の古生物学者、トーマス・カー氏だ。今回の研究には参加していない。「恐竜など絶滅した動物の数は、おそらく実際よりかなり少なく見積もられているでしょうから、新たな種が系統樹に加わるのは良いことです」

狩猟方法がティラノと似ていた?

 2012年、パタゴニア地方北部で調査を行っていた古生物学者の国際チームが、貴重な恐竜化石を発見した。ナショナル ジオグラフィック協会も一部資金を提供したこの調査では、探査の1日目にほぼ完全な頭、腕、下半身を含むメラクセス・ギガスの化石を発掘した。その骨格は現在までに見つかったカルカロドントサウルス科の骨格の中で、最も完全な状態のもののひとつだ。

 Tレックスなどの小さな腕についてはこれまで、利用価値がないたため徐々に縮んでいったと考えられていた。しかし論文の著者らは、それほど単純な話ではないことを今回の発見が示唆していると主張する。

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