ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、約7200万光年の彼方にある銀河「DF2」の画像。DF2は、ダークマターがほとんどない奇妙な銀河である。ダークマターは銀河を1つにまとめている目に見えない接着剤のような物質なので、DF2にこれがほとんどないことは天文学者たちを当惑させている。(SCIENCE: NASA, ESA, STSCI, ZILI SHEN (YALE), PIETER VAN DOKKUM (YALE), SHANY DANIELI (IAS) IMAGE PROCESSING: ALYSSA PAGAN (STSCI))
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、約7200万光年の彼方にある銀河「DF2」の画像。DF2は、ダークマターがほとんどない奇妙な銀河である。ダークマターは銀河を1つにまとめている目に見えない接着剤のような物質なので、DF2にこれがほとんどないことは天文学者たちを当惑させている。(SCIENCE: NASA, ESA, STSCI, ZILI SHEN (YALE), PIETER VAN DOKKUM (YALE), SHANY DANIELI (IAS) IMAGE PROCESSING: ALYSSA PAGAN (STSCI))
[画像のクリックで拡大表示]

 宇宙に存在する物質の80%以上を占めるダークマター(暗黒物質)。ところが2018年と19年、そのダークマターがほとんどないように見える2つの銀河が見つかった。一体どうやってできたのか、天文学者たちはそれ以来、頭を悩ませてきた。

「80億年ほど前に銀河と銀河が衝突し、その強烈なノックアウトパンチによって両方からガスがはぎ取られた」というのが、ダークマターのない2つの銀河DF2とDF4に関する最近の説明だ。この説明に今回、新たな観測結果が加わった。5月18日付けの学術誌「ネイチャー」に発表された論文によると、銀河衝突でばらばらになった残骸から、DF2やDF4と同じように奇妙な天体がいくつもでき、それらが一列に並んでいる可能性があるという。

 論文を執筆した米エール大学のピーター・バン・ドックム氏が率いるチームは、こうした変わり者の銀河の存在や、その付近の空間の特徴は、銀河どうしの衝突の残骸として説明できると主張する。「ガスを含む銀河どうしが激しく衝突すると、ガスがはぎ取られて衝撃を受け、銀河をまとめるダークマターがほとんどない混沌とした環境になるのです。その後、大きく不規則な形をしたガス雲の一部が分離し、それぞれが小さな銀河を形成するのです」

 バン・ドックム氏らが思い描くシナリオは、今後の観測で確認する必要がある。しかし、もしそれが正しいならば、今回発見された奇妙な銀河の行列が誕生した経緯をきれいに説明することができる。今回の論文によれば、銀河どうしの衝突は、ダークマターの基本的な性質の解明に役立つ可能性さえあるという。

「明るい球状星団と、ダークマターがほとんどない双子の銀河と、今回発見された奇妙な銀河の行列のすべてをシンプルに説明できる理論は、今のところこれしかありません」とバン・ドックム氏は言う。

銀河を支える見えない物質

 通常、銀河の質量の大半はダークマターの質量だ。1960年代後半、天文学者ベラ・ルービンは、回転するアンドロメダ銀河の縁の方にある星々が宇宙へ飛び出していかないのは、重くて目に見えない物質の重力によって引き止められているからではないかと推測した。その「接着剤」がなければ、アンドロメダ銀河や他の回転する銀河の縁の方の星々は失われてしまうだろう。(参考記事:「「ダークマター」をつかまえろ! 宇宙の謎を解く鍵を求めて」

 ルービンの研究から半世紀がたった今でも、天文学者はまだダークマターを直接観測できていない。ダークマターは光を発することも反射することもない。ふつうの物質と直接相互作用することはないが、その重力は恒星や銀河といった観測可能な物体のふるまいに影響を与える。科学者たちは、銀河が星々を生み出しはじめるのに十分なガスを蓄積するためにはダークマターが必要だと考えている。

 ところが2018年に、バン・ドックム氏はNGC1052-DF2(略してDF2)という、ダークマターがほとんどないように見える銀河を発見した。約7200万光年の彼方にあるDF2は、大きな楕円銀河の近くにある薄暗くぼんやりした銀河だが、非常に明るく大質量の星団がちりばめられているという珍しい特徴をもつ。この銀河の質量を計算したバン・ドックム氏は、DF2にはごくわずかなダークマターしかないことに気づいた。(参考記事:「【解説】ダークマターない銀河を発見、なぜ重要?」

「最初の発見は、私たち自身にとっても意外でした」と彼は言う。「説明のつかないものを手にした私たちは、重要なテーマについて多くの主張をするようになりました。そのため多くの研究者から注目されるようになりましたが、懐疑的な目で見られることもあります」

次ページ 宇宙の時計を巻き戻す