科学者たちはなぜ、宇宙は1つではないと考えるのか?

「宇宙が1つしかないとすると、私たちの宇宙のすべての性質を説明することができないのです」と、科学ジャーナリストのトム・ジーグフリード氏は言う。氏はその著書『The Number of the Heavens(天の数)』の中で、人類の歴史の中でマルチバースの概念がどのように発展してきたかを解説している。

「各種の物理定数は、なぜこのような値なのでしょうか?」とジーグフリード氏は問いかける。「この宇宙にはなぜ、恒星や惑星を作るのに十分な時間があるのでしょうか? 恒星はなぜ、この方法で、この量のエネルギーで、輝いているのでしょうか? 私たちの物理学理論では、こうした疑問には答えられません」

 これらの謎を説明する方法は2つある。1つは、宇宙の特性を説明できる、より新しく、より優れた理論。もう1つは、「私たちは多くの異なる宇宙のうちの1つに、快適に暮らしている」と考えることだと、ジーグフリード氏は言う。

マルチバース理論にはどんなものがある?

 おそらく科学的に最もよく受け入れられている理論は、インフレーション宇宙論から派生した泡宇宙モデルだ。インフレーション宇宙論では、宇宙はビッグバンによって誕生した直後に、指数関数的に急激に膨張したと考えられている。宇宙の構造や銀河の分布など、観測されている宇宙の性質の多くは、宇宙のインフレーション的膨張によって説明できる。

 インフレーション宇宙論の立役者の1人であるリンデ氏は、「当初は、奇想天外なSF小説のように思われていました」と打ち明ける。「けれども、私たちの宇宙の興味深い性質の多くがこの理論で説明できることがわかると、真剣に受け止められるようになったのです」

 インフレーション宇宙論の予測の1つに、インフレーションはずっと続いており、無数の宇宙を泡のように無限に作り出すというものがある。泡宇宙の性質はどれも同じであるとは限らない。私たちの宇宙とは物理定数が異なる宇宙もあれば、私たちの宇宙にそっくりな宇宙もあるかもしれない。いずれにせよ、これらは私たちが直接観測できる領域を超えたところにある。

ほかにはどんな理論がある?

 もう1つの有力なマルチバース理論は、ミクロな物質のとらえどころのないふるまいを数学的に記述する量子力学から生まれた「多世界解釈(エベレット解釈)」だ。量子力学をマクロな世界にも当てはめるべく、観測物理学者のヒュー・エベレット氏は1957年、マクロな私たちの現実は異なる宇宙の重ね合わせである、という解釈を提唱した。私たちが何かを決定するたびに宇宙は分岐して異なる現実が生まれ、ときにまったく違った結果が生じることもあるという。

「多世界解釈では、無限の数の地球がパラレルに存在しています。あなたが実験をして何かの確率を決定しても、そのようになる地球に自分が住んでいると証明しただけです。ほかの世界の地球では違った確率が出ていることになります」と、『スーパーヒーローの物理学』などの著書がある米ミネソタ大学の物理学者ジェームズ・カカリオス氏は言う。「エベレットが言っているのは、そういうことです」

 多世界解釈によると、あなたが複数の選択肢の中からどれかを選ぶたびに、別の選択をしたあなたが生きる宇宙が分岐していく。しかし、あなたが知覚できる現実は、あなたが生きている現実だけだ。

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