
マウスの中には、あまり活発でないものもいれば、回し車で走りたがるものもいる。この違いは、腸内細菌による影響かもしれない。2022年12月14日付けで学術誌「ネイチャー」に発表された研究により、運動好きのマウスの腸内には、運動への意欲を高める信号を脳に送る細菌がすんでいることがわかった。人間にも同じことが言えるだろうか?
定期的な運動が健康によく、多くの病気のリスクを減らすことは以前から知られている。しかし、成人の80%以上は世界保健機関(WHO)が推奨する週150分以上の運動をしていない。世界的に見て運動不足は、早死や冠動脈性心疾患、2型糖尿病、乳がん、大腸がんの6~10%を引き起こしているにもかかわらずだ。実際、座りっぱなしのライフスタイルは、医学誌「The Lancet」に2012年7月に発表された研究で、世界第4位の死因と推定されている。(参考記事:「1日3回、1~2分間活発に動くだけで死亡リスクが4割減、研究」)
しかし、運動するモチベーションの大きさが人によって異なる要因はよくわかっていない。運動が腸内のマイクロバイオーム(微生物叢(そう):ある環境中に共生する微生物のまとまり)に影響を与えることは知られているが、腸内のマイクロバイオームがどのように運動に直接影響するかは明らかでない。
腸内細菌と運動が関連していることは、これまでも示唆されていた。2019年に学術誌「Nature Medicine」に発表された研究では、ボストンマラソンを走ったランナーとそうでない被験者を比べたところ、ランナーは便の中にいる特定の種の細菌がマラソン後に増えたことが示された。また、これらの腸内細菌は、マウスに移植すると運動能力を向上させうることがわかった。
今回の新たな研究では、少なくともマウスについては、いくつかの種の腸内細菌が期待感を高める神経伝達物質のドーパミンの産生を促し、より長時間の運動に対する報酬となっている可能性が示された。
運動後の脳には、ヒトとマウスの両方で、多くの神経化学的な変化が起こる。ドーパミンの急増はその一つにすぎない。
「この研究は、マウスにおいて運動への意欲がマイクロバイオームに影響されることを、かなり決定的に示しています」と、米ハーバード大学医学部のアンソニー・コマロフ教授は言う。氏は今回の研究には参加していない。「(この研究は)どのようにマイクロバイオームが動物の運動意欲に影響を与えうるかのメカニズムを説明しています」
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