※日経トレンディ2021年6月号の記事を再構成
中国の作家・劉慈欣によるSF長編、『三体』シリーズが記録的な快進撃を続けている。日本で第1部が発売された2019年時点ですでに、世界全体での累計発行部数は2900万部、20カ国語以上の言語に翻訳され、さらに部数を伸ばしている。
「翻訳SFの単行本では今世紀最大の売り上げ」と語るのは早川書房で『三体』シリーズの編集を担当する「SFマガジン」編集部の梅田麻莉絵氏。日本でも現在までで累計37万部となり、完結編の発売を5月末に控える。未知の異星人との遭遇や攻防を描く古典的テーマながら、エンターテインメント性が高く、SFに持ち込まれた中国的感性の新鮮さに読者層を広げている。

物理学の難問「三体問題」に着想を得たSF長編の三部作。運行周期が予測不能な3つの太陽の影響で、たびたび滅亡の危機にさらされる恒星系を脱し、地球への侵攻を画策する「三体人」と人類の攻防を描く
完結編5月25日発売

中国では08年の第1部発売後すぐに話題作となったが、それを世界規模の爆発的ヒットにまで押し上げたのは、15年にSF界の最高賞とされるヒューゴー賞長編部門を、アジア作家として、また翻訳小説として初めて受賞したことだ。作家ケン・リュウによる質の高い英訳に、オバマ元大統領やフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグらが推薦本に挙げたことも、売れ行きに拍車をかけた。
「中国では社会現象と呼べる大ヒット。19年に成都で開かれた中国のSF大会に参加し、劉慈欣氏への熱狂的歓声にその人気ぶりを実感した。加えて、参加者が高齢化しつつある日本のSF大会と比較してとても規模が大きく、若者が多いことにも驚いた」(梅田氏)

63年、中国山西省生まれ。エンジニアとして発電所に勤める傍ら小説の執筆を始め、99年に中国のSF雑誌「科幻世界」でデビュー。『三体』で一躍世界的ベストセラー作家に(写真:VCG/Getty Images)

2006年▼ | 中国のSF雑誌「科幻世界」に連載開始 |
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2008年▼ | 第1部・第2部の単行本発売。中国国内でヒット |
2010年▼ | 第3部単行本発売 |
2014年▼ | ケン・リュウによる翻訳で英訳版発売 |
2015年▼ | アジア人作家初となるヒューゴー賞長編部門受賞。その後、オバマ元大統領、マーク・ザッカーバーグらが相次いで推薦。国際的評価を受け、中国国内でもさらに爆発的ヒットに |
2019年▼ | 日本で第1部の邦訳発売。
劉慈欣『さまよえる地球』を原案とする映画『流転の地球』公開。中国では歴代興行収入4位の大ヒット ![]() 映画『流転の地球』。壮大な太陽系脱出計画を描く Netflixオリジナル映画『流転の地球』独占配信中 |
2020年▼ | 第2部の邦訳発売 Netfliaxがドラマ化を発表 |
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