日経トレンディ2021年12月号は、1年の「ヒット現象」を総特集。その中で「大研究!シティポップ×レコード再ブームの理由」を実施した。1979年に発売された松原みきの「真夜中のドア~ stay with me」が、2020年末、Spotifyのグローバルバイラルチャート18日間連続1位を記録し、再生回数は8000万回を突破。同曲の作曲とアレンジを手掛けたのが、1970年代から日本の音楽シーンの第一線で活躍する林哲司氏だ。

「真夜中のドア」がYouTubeやサブスクリプションサービスで爆発的なヒットとなっています。この状況をどのように分析していますか。

林哲司氏(以下、林氏):いま自分が取り組んでいるバンドのメンバーから、数年前に「YouTubeで『真夜中のドア』の再生回数がすごいことになってます」と聞いたんですけど、そのときはうれしいより、「なんで?」ですよ(笑)。最初は何が起こっているのか、まったく分からなかった。

 プロデュースをなりわいとする職業柄、自分でも分析するし、雑誌の記事などでいろいろな方々の分析を目にしました。その一つひとつはどれも正解だと思うんですけれど、最終的には理由は1つではなく、いろいろな要素が縦軸・横軸でからまり、たまたま「真夜中のドア」にスポットが当たったというのが結論ですね。

<span class="fontBold"><a href="http://www.hayashitetsuji.com" target="_blank">林 哲司</a>(はやし・てつじ)氏</span><br />1973年シンガー・ソングライターとしてデビュー。以後、作曲家としての活動が中心に。竹内まりや「September」、松原みき「真夜中のドア~stay with me」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、中森明菜「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語-NEVER ENDING SUMMER-」、菊池桃子「卒業-GRADUATION-」、稲垣潤一「思い出のビーチクラブ」など、1500曲余りの作品を発表。映画音楽、テレビドラマ音楽、イベント音楽の分野においても多数の作品を提供。「SONG FILE LIVE」など、積極的なライブ活動も行っている。
林 哲司(はやし・てつじ)氏
1973年シンガー・ソングライターとしてデビュー。以後、作曲家としての活動が中心に。竹内まりや「September」、松原みき「真夜中のドア~stay with me」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、中森明菜「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語-NEVER ENDING SUMMER-」、菊池桃子「卒業-GRADUATION-」、稲垣潤一「思い出のビーチクラブ」など、1500曲余りの作品を発表。映画音楽、テレビドラマ音楽、イベント音楽の分野においても多数の作品を提供。「SONG FILE LIVE」など、積極的なライブ活動も行っている。

縦軸・横軸としてどのような要因があったと考えますか。

林氏:まず、ネット社会というのがベースにあります。人々の音楽に対する接し方が(レコードやCDなどの)フィジカルの時代と、サブスクリプションサービスの現在では、まるっきり変わってしまったわけですよね。レコードやCDの場合、音楽に対して「物を購入する」という意識がそこに強く出ると思うんです。サブスクリプションの場合は、定額を払っていれば自由に楽しむことが可能なので、極端に言えば、目的の曲の横にあるものも安易に聴ける。そして、「真夜中のドア」のように日本発で言葉の壁がある曲でも、体感的に好きだと思えば国、言語、時間も関係なしに聴かれて、それが再生回数としてカウントされていく。

 ヒット曲は通常、一過性のものですが、この曲は長い間リスナーに支えられてきた印象があります。例えば、昭和歌謡をかけるDJが増えていますが、当時学生で好きで聴いていたという方々がDJになってクラブでかけてくれる。海外のDJたちも自分の国の身近な音楽ではなく、「自分はこういうものを知っているんだぜ」と、日本の音楽にも触手を伸ばした。

 楽曲の魅力が40年以上という時空を超えて伝わったことは、素直にうれしいです。ただシティポップブームの中で、他にも評価を得ている曲はあります。この曲が突出した結果になったのは、運ですよね(笑)。他の曲でもよかったんだと思うんですけど、ブームとなるベースとして、「この曲が人から愛されるものであった」のであれば、作り手としてうれしいという気持ちはあります。

続きを読む 2/4 A面に採用されなかった「新しい音楽」とは

この記事はシリーズ「日経トレンディ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。