お金は分配できても評判を分配することはできない
──最後にこの「無理ゲー社会」において、子供を持つ親として、あるいは企業人として、今後どのようなことに意識を向けていけばいいでしょう。
コロナ禍で、世の中の理不尽さはさらに際立ってきていると感じます。驚いたのは、株価が上昇したこと。経済が打撃を受けてGDPが縮小しているなら、株価も下がるはずなのに、逆にネット株やハイテク株を中心に急騰し、資産20兆円を超えるジェフ・ベゾスやイーロン・マスクのような超大富豪が現れた。
日本では新型コロナウイルスの感染抑制対策が基本的に「お願い」ベースのため、さらに理不尽なことになっています。私が住んでいる辺りでも、混んでいる飲食店があると思ったら、お酒を提供していることが増えてきた。店側も苦渋の決断だと思いますし、責めても仕方がないですが、自治体の要請を守っている店からしたら納得できないですよね。「正直者がバカをみる」社会では、子供たちは道徳に無関心になり、ルールを守らない方が成功できると学習するんじゃないでしょうか。
この「無理ゲー社会」をどう生き延びるかを子供たちに教えるのは難しいですよね。経済格差の問題は、持てる者から持たざる者に金銭を移転すればいいのですから、それがいかに困難でも、原理的には解決可能です。しかし、皆が気づいていない本当の問題は、次にやってくる「評判格差社会」です。国家はイーロン・マスクから税を徴収できますが、6000万人のTwitterのフォロワーを移転することはできない。「お金は分配できても評判を分配することはできない」という問題に対して、これまで解を出せた人はいません。
その一方で評判社会には、個人を会社(組織)から解放する大きな力がある。長年フリーランスでやってきたのでバイアスがかかっているかもしれませんが、今後は社会のフリーエージェント化が進んでいくのだろうと思います。これまでは、会社の評判が信頼保障になっていたのが、SNSなどで個人の評判が可視化されると、会社や所属組織に関係なく、評価が高い人と付き合った方がいいということになる。単発の仕事を請け負うギグワーカーというとウーバーの配達員を思い浮かべますが、米国では大きな人的資本を持つスペシャリスト(専門職)が、SNSなどでの評判を担保に独立してギグワークするようになってきている。
夫婦ともにフリーになれば子育てもしやすくなりますし、一番いいのは人間関係を選択できること。「イヤな奴」と仕事をするストレスを避けられるだけで、人生の幸福度は劇的に上がると、皆気づき始めています。今後は、20代は会社で仕事の経験を積み、人的ネットワークをつくって、30代半ばでフリーエージェントになる時代が来るのではないでしょうか。
[日経クロストレンド 2021年9月2日掲載]情報は掲載時点のものです。
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