公開日以降にイベントを多数実施

 一般には、映画の試写会や公開日の直後に監督や出演者が舞台挨拶をするのが常だが、『シン・エヴァ』では公開からしばらくたった21年3月28日に東京・新宿バルト9でキャスト陣14人が、4月11日には同場所にて庵野総監督含めた監督陣とキャストの緒方恵美(碇シンジ役)が登壇し、舞台挨拶を行った。

 「その後、ライバルである大作たちが公開されるのが分かっているので、中押しをして盛り上げる必要がありました。監督陣の登壇は予定に無かったのですが、『お客様へお礼を言いたい。直接メッセージを出したい』と、総監督本人が希望されたのです」(島居氏)

公開後も舞台挨拶などプロモーションを行った
公開後も舞台挨拶などプロモーションを行った
21年3月28日にキャスト陣14人が登壇
4月11日に、庵野秀明総監督含めた監督陣と緒方恵美が登壇
4月11日に、庵野秀明総監督含めた監督陣と緒方恵美が登壇

 宣伝費が無くても、結果的にはテレビで『シン・エヴァ』の話題が尽きることは無かった。前作が公開された9年前とは、アニメや声優に対する認識も変化し、声優がドラマやバラエティー番組に出演したりすることも多かったからだ。

 「テレビのニュースで取り上げられたり、『シン・エヴァ』に出演している声優さんや、『残酷な天使のテーゼ』の高橋洋子さんがバラエティーに出演され、代表作として紹介されるために映像を貸し出したりすることで、CMは打てなくても話題がつくれました。もしかしたら、それもまた映画を見てみたいというアクションにつながったのかもしれません」(島居氏)

 こうして、公開日以降にも丁寧に話題をつくったことが、結果につながった。興行収入100億円突破という数字は、往年のファンを集めるだけで達成できるわけではない。壮大な前作をきちんと見ていないと楽しめないのではないかという、シリーズならではの弱点はどう補ったのだろうか。

 「今の若い人には、シリーズものを通して見ないといけないというこだわりは無さそうです」と神村氏は言う。「『鬼滅の刃』も漫画もアニメも見ていないけれど、映画を初見で楽しめたという人が多い。『名探偵コナン』や『ONE PIECE』にしても、新しいファンは過去作品をすべて見ているかといえば、そうじゃないですよね。『エヴァ』も初めてだけど面白かったという声が多いんです。過去作を知らなくても、映像としての面白さやキャラクターの感情に入り込める。一見さんこそぜひ見てほしいです」(神村氏)

 「今回のことはテレビ広告の意味を考え直す機会にもなりました。今後、映画の宣伝費の概念は劇的に変わると思います。リアルタイムで発信する大切さ。これからは公開日から本当の宣伝が始まるのではないかと思っています」(紀伊氏)

 「先が全く見えない状況で、その瞬間の最善を尽くすしかなかったプロモーション。延期したからこそできたこともあったし、やれることは全部やった(はず)」(島居氏)

※後編は21年7月16日公開予定。『シン・エヴァ』と各企業とのコラボについて言及する

(写真/吉澤咲子)

[日経クロストレンド 2021年7月14日掲載]情報は掲載時点のものです。

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