ギリギリに決まった公開日

 コロナによって計画が覆ったが、実は、従来のように前々から固められたプロモーションでは、人々のニーズに追い付けないという事実もあった。「NetflixやAmazonのようなVODサービスが発達し、消費者がある意味、せっかちになっている。今は、1週間後に公開になるものの告知よりも、『今、やってるよ!』と、すぐに行動に移させるプロモーションの方が効くこともあります」(島居氏)

 「あまりに最初から長期計画を決めてしまうと、本当は違う手段の方がいいのに、前から決めていたからやらなければならないと縛られてしまう。実はそれは無駄が多いということにも、コロナが気付かせてくれました」(紀伊氏)

 1度目の延期後には、21年1月23日の公開に合わせてテレビのスポットCMを打つことを決めていたが、公開日が再度延期になり、CMのリスケジュールは間に合わない。いわば苦肉の策でひねり出したのが、キービジュアルに添えた「西暦2021年公開予定 共に乗り越えましょう」という一文だった。「ここで宣伝費は使い切った。さあどうしよう、と、公開日以降もずっと考えていましたね」(紀伊氏)

 公開日が月曜日なのも、ギリギリの決断の上のことだった。まず、3月5日の金曜日にする案があったが、緊急事態宣言が延長され、全解除まで公開ができない。では、完全に解除されてからの金曜は? というと、別作品が既に陣取っている……。

 しかも、『シン・エヴァ』の上映時間は、2時間34分。映画館は20時までしか営業できないので、18時スタートができない。「平日公開で仕事が終わってからでは間に合わない映画なんて、これまでのセオリーでは考えられない。頭を抱えましたが、どうせなら普通じゃない方が、インパクトがあると考えたんです。えー! 何で月曜日? という驚きがあっていいじゃないかと」(紀伊氏)

 パンフレットの初版は40万部。配送・保管するだけでも膨大な費用がかかる。今すぐ止めるか配送するかを決めないと劇場に届いてしまう、どうする? という状況の中、「月曜スタートで行こう」という決断につながった。「結果、みなさんが仕事を休んでまで見に行ってくださったことは本当にありがたいです」(島居氏)

カラーの島居理恵氏
カラーの島居理恵氏

 一般に映画のプロモーションは、公開初日をピークに逆算して企画される。そこで映画のパブリシティー活動も、宣伝も終了に向かっていくことが普通だ。しかし、『シン・エヴァ』は公開日すら土壇場の決定。そこがむしろ、プロモーション戦略の始まりとなった。公開後も「次に何をすべきか」を話す定例会は継続され、次々とイベントを繰り出した。

(c)カラー
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