人集めが難しい、地方の貴重な小売店を救える

――もともと店舗の省人化には興味があったのでしょうか。

 そうですね。私は生活サービス事業がやりたくてJR東日本に入りました。それから、3年くらいコンビニ「NewDays」の店長をしており、「アルバイトが集まらないと店長が休めない」といった、小売店によくある苦労も経験しました。また、青森県でりんごを使ったシードルを製造・販売するプロジェクトに参画していた時に、「青森ねぶた祭の時は人が集まるが、冬場は売り上げが減って店舗の人件費が支払えない」といった光景も目の当たりにしました。

 要は、今のサービスは人の手を介さなければできないことがほとんどで、「人件費」が新ビジネスの足かせになることが多いんです。自動販売機は優れた販売手法なのですが、飲料以外の商品は自販機であまり売れない傾向があります。これらの課題をどうにかしたいとは思っていました。

 そうした経験があったので、JR東日本スタートアップで働いている時に、ベンチャー企業のサインポストからAI無人決済システムの話を聞いて、「省人店舗の事業を自分でやってみたい」と思いました。

――今後、どのようなところにTOUCH TO GOのシステムを広げていくつもりですか。

 TOUCH TO GOの仕組みで、ライフラインとしての役割を果たしている“マイクロマーケット”を救いたいと思っています。地方に行くと、地域の人にとってはオンリーワンで重要な店舗だったのに、売り上げが少ないために潰れてしまったケースが多々あります。コロナ禍でテレワークが進んだことにより、オフィスビルや病院に入っている小売店も売り上げが落ちています。TOUCH TO GOのシステムを使えば、通常2~3人の人員が必要な店舗でも、バックヤードに1人がいれば運営でき、大幅にコストを削減できます。こうした「必要だが維持が難しい」店舗を救っていきたい。23年までに全国で100カ所というのが今の計画です。

――コロナ禍で、無人決済への注目度は上がっています。

 今ファストフード店などでは、感染症対策のため、「1組の注文と支払いに対応したら手を洗う」というルールの店舗も珍しくありません。無人決済システムなら、利用客に手指消毒をしてもらうだけでよく、コロナ禍で問い合わせは増えたと感じています。

――ファミリーマートとの取り組みに先立つ20年10月には、無人オーダー決済端末「TTG-MONSTAR」の導入も始まりました。これは券売機と何が違うのでしょうか。

 TTG-MONSTARは、TOUCH TO GOの無人決済レジだけを切り出したシステムです。よくある券売機は「1ボタン1メニュー」なので、サイドメニューや飲料が何種類もあるような店舗では使えません。液晶モニター付きの高度な券売機もありますが、本体価格が約200万円と高価。またネットにつながっていないことが多く、メニューの変更などが簡単にできない弱点もあります。TTG-MONSTARは、安価なタブレットを使っているので、システム利用料だけなら1台月額3万5000円から導入でき、かつ省スペースです。支店が多いチェーン店などでも本部からの遠隔操作でメニュー変更などができます。

 これを20年11月に、ハンバーガーショップの「R・ベッカーズ田町店」(東京・港)に導入してみたところ、意外なメリットがありました。有人レジ1台しかなかったところに、TTG-MONSTARを2台設置したところ、客単価が約2割アップしたのです。レジが1台のときは行列ができていたので、焦って注文を早く終わらせていた人が多かったようです。余裕があれば注文を追加する人が多いというのは驚きでした。

JR田町駅構内の「R・ベッカーズ 田町店」に無人オーダー決済端末「TTG-MONSTAR」を導入
JR田町駅構内の「R・ベッカーズ 田町店」に無人オーダー決済端末「TTG-MONSTAR」を導入
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――今後はどのようなことにトライしていきますか。

 利用者が絶対に迷うことがないように、メニュー画面などの分かりやすさは今後も追求していきます。自分の母親でも使えるシステムが目標です。

 もう1つ、ぜひやりたいと思っていることが「買わなかった人のマーケティング」です。通常レジのPOS(販売時点情報管理)データでは、買った人の情報しか分かりません。でも、実は来店客の2割は何も買わずに出てしまうんです。TOUCH TO GOの導入店舗では、「一度商品を手に取ったのに棚に戻した」「POPを見たのに素通りした」といった行動を天井のカメラでずっと記録できます。こうしたデータを分析することで、もう1品買ってもらえるには何をすればいいかが見えてくるはず。そういったマーケティングができるソフトウエアを将来はつくりたいです。

ヒットメーカーの心得

気分転換のために心掛けていることはありますか?

運動ですね。今は職場に自転車で通える距離に住んでいるので、忙しいときでも運動をしやすい環境です。時間ができたときには好きなサーフィンに行くようにしています。

何をよく仕事の情報源にしていますか?

兼務するJR東日本スタートアップで経営者とよく話すので、そこでの情報収集は大事にしています。ニュースで聞く言葉が本当に社会実装できる技術なのかはそこで分かります。

(写真/小西範和)

[日経クロストレンド 2021年6月8日掲載]情報は掲載時点のものです。

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