「偽の相関」に惑わされないのが大事

──自分の研究の中にミスが見つかったり、発見したことが既出だと分かったりしたときには、どのように対処するのですか?

 研究者というのは自分のミスに気付くことに慣れています。「川上、2020年の論文ではこう言っているけれども、これは間違いだ」と自分で否定したりするんですよ。早めに認めて公表します。その方が傷が浅いです(笑)。統計的な計算の方法が発展すると、その時点では足りなかった要素が後から分かってくることもあります。

──科学的に判断するために気を付けるべきことは。

 疑似相関に惑わされないことですね。全く関係のない2つの事象について、関係があるかのように捉えてしまうことです。世の中のニュースを見ていても、相関が見つかった=因果関係があるかのように誘導しているケースがしばしばあります。例えば、気温が高くなると集中力が落ち、書き間違えをするようになって、消しゴムがよく売れるとしましょう。一方で暑くなると喉が渇いて「ドクターペッパー」をよく飲む。そこで消しゴムの消費量を横軸に、ドクターペッパーの消費量を縦軸に取ると、消しゴムをよく使うとドクターペッパーが売れるという偽の相関を表したグラフになってしまうわけです。それが本当に原因と結果なのか、結果と結果ではないのかを見極める必要があります。

 世界史などもそうですが、断片的な知識だけではあまり面白くない。理由と因果関係によって大きな流れが見えると面白くなります。例えば、植物食の恐竜は脳が小さく、体長25メートルもある竜脚類のディプロドクスでも脳はわずか100グラムくらいしかない。一方、肉食恐竜は脳のサイズが大きい。なぜその相関が表れるのかを考えると、植物がたくさんある環境では植物食の竜脚類は食べ物を探す必要がなく、体が大きいと捕食者を警戒する必要もない。ものを考えるというのはすごくエネルギーを消費することなので、燃費を節約したい野生生物は考えずに済むなら考えない方がいいから脳は小さくてよかった。ところが肉食の場合は、食べ物である獲物は逃げていくので、ちゃんと考えて捕らえることができなければ飢えて死んでしまう。少しでも脳が大きくて頭のいい種が進化して生き残った、というメカニズムが予想されるわけです。

──今回の新著は、ある鳥のために書かれたものだそうですね。

 絶滅が危惧されているオガサワラカワラヒワのために書きました。自然の中には多くの知見が眠っていて、1種の生物の中にも数百万年にわたる進化の歴史が隠されている。絶滅とは、「知の源泉」となる存在が世界から永遠に消し去られてしまうことです。そして今、絶滅へのカウントダウンが始まっているオガサワラカワラヒワに絶望的に欠けているものが、知名度なんです。保全に税金を使わせてもらうには国民の理解が必要ですが、今はまだあまりにも知られていない。

 小笠原の鳥のおかげで研究ができて、研究成果を出すことができて、鳥類学の世界を知ってもらえた。今まで鳥たちから搾取するばかりだった僕が、この本を出せたことでようやく小笠原の鳥に対して恩返しができる。本を通じて、まずは「オガサワラカワラヒワ」の名前を覚えていただけたらうれしいです。

川上氏が新著をささげるオガサワラカワラヒワの標本
川上氏が新著をささげるオガサワラカワラヒワの標本
川上和人『鳥類学は、あなたのお役に立てますか?』(新潮社)。税込み1595円
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著者が薦める本
アン・レッキー『叛逆航路』シリーズ(東京創元社)
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説明できないほど壮大で面白いスペースオペラ。「こう来るのか!」という意外なラストにたどり着く(川上氏)

(写真/髙山 透)

[日経クロストレンド 2021年3月24日掲載]情報は掲載時点のものです。

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