日本製鉄がグローバル事業の威信をかけて欧州アルセロール・ミタルと経営するインドのAM/NSインディア(AMNSI)。その旗艦拠点であるハジラ製鉄所(グジャラート州)は日本の製鉄所ではお目にかかれない設備があちこちに並び立ち、製鋼から圧延まで活況を呈する様子はまさに「踊る製鉄所」だ。製鉄所周辺には社宅が連なるなど従業員らのコミュニティーも根付いており、鉄づくりと生活が隣り合わせになっている風景はどこか日本を彷彿とさせる。日本と似ているようで似ていない、ちょっと変わったインド製鉄所の見聞録をお届けする。

■連載予定 ※内容は変更する場合があります
(1)日本製鉄、V字回復を成し遂げた橋本改革の真相
(2)日本製鉄、負け犬体質を払しょく トヨタがのんだ大幅値上げ
(3)日本製鉄の橋本社長「危機の真因は10年前の経営統合にあった」
(4)日本製鉄の改革が教える 「利益なき顧客至上主義」への戒め
(5)道険し脱炭素 日本製鉄、“静脈”人材に託す
(6)日本製鉄のグローバルな適“鋼”適所 海外生産が日本を上回る日
(7)インドの「踊る製鉄所」見聞録 高炉新設に日本製鉄社員も感無量(今回)
(8)目指せDXの鉄人 日本製鉄が築く「考える製鉄所」

 インド北西部・グジャラート州の港湾都市スーラットがハジラ製鉄所の玄関口だ。スーラットは別名「ダイヤモンドの都」。世界の約9割のダイヤはインドで研磨加工されているが、その最大産地がスーラットなのだ。ただ、そのスーラットもウクライナ侵攻に揺れるロシアからダイヤの原石が入りにくくなっており仕事を失う職人が増えているのだという。

 スーラットを朝方に立ち一路西へ。我が物顔で道路を歩く牛たちをかわしながら車を一時間ほど走らせると、海へとつながるハジラ川の河口沿いに巨大な製鉄プラントが姿を現す。お目当てのハジラ製鉄所だ。

ハジラ製鉄所構内に入る
ハジラ製鉄所構内に入る
ハジラ製鉄所のシンボルは6基の直接還元炉
ハジラ製鉄所のシンボルは6基の直接還元炉

鉄鉱石の酸素を天然ガスで還元

 東京都中央区より広い敷地に粗鋼の年産能力で約900万トンに及ぶ設備が並ぶ。2021年のインド国内のシェアは5位だ。製鉄所の案内役はベラ・フェルナンデスさん。「ハジラの母」として従業員からも親しまれている。

ベラさん(右)はハジラを知り尽くした広報担当者
ベラさん(右)はハジラを知り尽くした広報担当者

 まず案内してくれたのは岸壁。製鉄所のシンボルである「直接還元炉」というプラントが横一列に並ぶ光景は圧巻だ。直接還元炉とは、石炭(コークス)ではなくて、天然ガスで鉄鉱石の酸素を取り除く設備。その溶けた鉄鉱石を鉄スクラップや添加剤と混ぜて成分調整しながら欲しい鋼にする。

 日本では鉄鉱石とコークスを反応させて溶けた鉄「銑鉄」を取り出す高炉が主力。日本で記者もたびたび訪れたが、直接還元炉はなかなかお目にかかれない。天然ガスが豊富なインドならではの設備で、ハジラ製鉄所には6基の炉が鎮座する。高炉も1基あり、バラエティーに富んだ鉄づくりができるのもハジラの特徴だ。

 次に訪れたのが、その溶けた鉄(鉄鉱石)を鋼にする製鋼工場だ。「ここではすごい花火が上がるわよ」。ベラさんの笑みに期待が高まる。

 溶けた鉄は巨大な鍋に入れられ、天井をはうクレーンで運ばれてくる。鍋が傾き、鋼にするための電気炉に、溶けた鉄がどぼどぼ注がれる。まばゆいオレンジの火花がこれでもかというほど飛び散る。まさに地上の花火だ。

 こうした火花は日本の「転炉」現場でも見ることができるが、ここでは15mほどの距離だろうか、これほど間近で製鋼工程を目にしたことはない。ちょっとした感激を覚えた。

まさに花火が上がったような製鋼の現場
まさに花火が上がったような製鋼の現場

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