このままでは確実につぶれる──。日本製鉄の橋本英二氏は社長就任時、強い危機感を抱いた。信念をよりどころに改革を進め、最重要の顧客すら敵に回してきた。危機の本質を見抜いたリーダーが、復活に至った軌跡を語る。

(聞き手は本誌編集長 磯貝高行)

■連載予定 ※内容は変更する場合があります
(1)日本製鉄、V字回復を成し遂げた橋本改革の真相
(2)日本製鉄、負け犬体質を払しょく トヨタがのんだ大幅値上げ
(3)日本製鉄の橋本社長「危機の真因は10年前の経営統合にあった」(今回)
(4)橋本改革が示唆するもの 利益なき顧客最優先を疑え
(5)道険し脱炭素 日本製鉄、“静脈”人材に託して突破
(6)日本製鉄、タイで見た適“鋼”適所のグローバル経営
(7)目指せDXの鉄人 日本製鉄が築く「考える製鉄所」

橋本英二(はしもと・えいじ)氏
橋本英二(はしもと・えいじ)氏
1955年熊本県生まれ。79年一橋大学商学部卒業、新日本製鉄(現日本製鉄)入社。88年、米ハーバード大学ケネディ公共政策大学院卒業。主に鋼材の営業畑を歩み、96年以降は輸出や海外事業を担当した。2009年執行役員、13年には常務執行役員となりブラジルの合弁会社の立て直しを任された。16年副社長、19年から現職。(写真:加藤 康)

2022年4~9月期は国内の粗鋼生産量が16%落ちる中で、連結事業利益が半期として過去最高になりました。通期でも純利益は過去最高になる見通しです。業績を自己採点するなら何点でしょうか。

橋本英二・日本製鉄社長(以下、橋本氏):公約である「いかなる環境下でも(在庫評価差を除いた)実力ベースでの年間事業利益6000億円」というのはクリアしそうです。しかし、(鉄鋼市場の)環境が悪く、国内製鉄事業は本来であれば4割ほど稼ぎたいところですが、実際は4分の1になる見込みです。粗鋼生産量が100万トンでも戻ればかなり上振れする収益構造にはなっているのですが、そこまでいかなかった。そういう意味では75点ぐらいになるのではないでしょうか。

自分が再建を請け負えるのか

社長歴は10月で約3年半になりました。日鉄をV字回復に導きましたが、19年に社長に就任した時はどんなことを考えていたのですか。

橋本氏:このままでは確実につぶれるという状況だったんです。製鉄コストが膨れ上がり、価格も30年ぐらいずっと安売りが続いていた。しかも、製鉄所の設備の老朽化更新の投資も必要でした。

 国内の製鉄事業が4期連続赤字になり、日々キャッシュが出続ける中で、本当に自分が請け負って再建できるのかと思いました。ただ、受けた以上はやるしかない。決めたからには2年でやると覚悟しました。

 私が尊敬する経営者、ミスミグループ本社の三枝(匡名誉会長)さんが、(回復にかける期間は)2年と著書に書かれていたのと、現実的に今のキャッシュアウトの状況がこのまま2年続いたら倒れるところだったんです。金融機関の姿勢もこれ以上の貸し出しはできないという感じになっていました。

 危機の真因は(10年前の新日本製鉄と住友金属工業との)経営統合です。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3704文字 / 全文4807文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「上阪欣史のものづくりキングダム」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。