新日本製鉄と住友金属工業が合併し、日本製鉄(旧新日鉄住金)が誕生して10月で10年がたった。鉄鋼業界は供給過剰にあえぎ、中国勢の台頭もあって苦境に立たされてきた。だが、ここにきて日鉄が鋼の収益体質を手に入れ生まれ変わった。国内では生産合理化や、トヨタ自動車に対する強気の値上げを実現。グローバルにはインドやタイで巨額投資を進め、成長への布石を打つ。変革の旗を掲げるのは2019年春に就任した橋本英二社長だ。沈みかけた巨艦はいかに復活したのか。

連載1回目は、危機の本質を見抜いた橋本社長が、独自の経営哲学を持って切り込んだ構造改革の真相に迫る。

■連載予定 ※内容は変更する場合があります
(1)日本製鉄、V字回復を成し遂げた橋本改革の真相(今回)
(2)日本製鉄、負け犬体質を払しょく トヨタがのんだ大幅値上げ
(3)日本製鉄の橋本社長「危機の真因は10年前の経営統合」
(4)橋本改革が示唆するもの 利益なき顧客最優先を疑え
(5)道険し脱炭素 日本製鉄、“静脈”人材に託して突破
(6)日本製鉄、タイで見た適“鋼”適所のグローバル経営
(7)目指せDXの鉄人 日本製鉄が築く「考える製鉄所」

橋本は1979年に新日本製鉄に入社、主に鋼板の営業畑を歩んだ。96年からは輸出や海外営業など主にグローバル事業を担当。新興国開拓や数々の海外メーカー買収などに力を尽くした(写真:加藤 康)
橋本は1979年に新日本製鉄に入社、主に鋼板の営業畑を歩んだ。96年からは輸出や海外営業など主にグローバル事業を担当。新興国開拓や数々の海外メーカー買収などに力を尽くした(写真:加藤 康)

 トップに就任した2019年を起点とする橋本改革は、強烈な自己否定から始まった。

 「経営統合は会社をよい方向へ向かわせるきっかけにはなっても、(経営改善の)対策にはならない。外には立派なことを言っているけど、お互い苦しくなって統合したんだ」

 統合とは、旧新日本製鉄と旧住友金属工業の合併を指す。

 世紀の大合併といわれてから、22年10月で丸10年がたった。誕生した新日鉄住金の連結売上高は約4兆3900億円、従業員は7万6000人。当時、世界首位の欧州アルセロール・ミタルに次ぐ2位に躍り出た。中国勢も台頭するなか、会社統合でグローバル競争を勝ち抜くことを掲げたが、統合こそが「経営危機に陥る真因だった」。その意味と構造改革の全容を説明する前に、改革の成果を見てみたい。

「みんな勘違いしていた」

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