日本製鉄がインドで拡張投資に突き進んでいる。9月、欧州アルセロール・ミタルとの合弁会社を通じ高炉2基をはじめとする製鉄ラインの新設に7300億円を投じると発表。22年は大型投資だけで計5000億円弱の投資を表明しているが、二の矢三の矢を放ち続ける。日鉄が金に糸目を付けないのは、インドという極めて恵まれた事業環境で競合大手との拡張競争に打ち勝てば、グローバルに生き残れる道が開けるからだ。

 「インド市場でのプレゼンスを確保する」。9月28日に記者会見した日鉄の森高弘副社長は語気を強めた。それもそのはず。ミタルが60%、日鉄が40%を出資するインド合弁会社、AM/NSインディア(AMNSI)の投資とはいえ、日本では今後あり得ないであろう高炉の新設となるからだ。

 インド西部のハジラ製鉄所に、高炉2基に加えて不純物を除去し高品質の鋼をつくる「転炉」や溶けた鋼を板状に成型する鋳造設備、板を薄く延ばす圧延設備など一貫生産ラインを設ける。約4100億ルピー(7300億円)をつぎ込み、粗鋼生産能力を年1500万トンと1.5倍に引き上げる。

ハジラ製鉄所の主力は「直接還元炉」だが、今後高炉による生産を増やす
ハジラ製鉄所の主力は「直接還元炉」だが、今後高炉による生産を増やす

収益拡大で日鉄グループのけん引役に

 ハジラ製鉄所は、石炭ではなく天然ガスで鉄鉱石の酸素を取り除く「直接還元炉」が主力で6基を備える。酸素を取り除いた鉄鉱石を電気炉で溶かし鋼を製造するのがハジラの特徴だ。高炉は1基のみだったが、25年後半から26年にかけて新規に2基を稼働させる。

 その約1カ月ほど前には、AMNSIの前身であるエッサール・グループから製鉄に関わる港湾や発電所などインフラ群を24億ドル(約3400億円)で取得すると発表。さらに、さかのぼること4月には自動車など向けの高級鋼板を量産する下工程の工場新設を決めた。腐食などを防ぐ「溶融亜鉛メッキ」を施したり、冷延加工したりする設備からなり、同社にとって初の自動車用鋼板のラインだ。約1400億円を投じており、足元では建屋新設のつち音が響く。

 9月の発表時、森副社長はさらなる野心をのぞかせた。「インドの鉄鋼需要の成長に早期に対応する」と追加の能力拡大を明言。具体的にはインド東部でも製鉄所を立ち上げる構想を強調し、粗鋼生産能力を3000万トンと30年に3倍超に引き上げる青写真を示してみせた。

 今後、キャッシュアウトと借り入れによって財務負担は膨らむが、AMNSIの21年の有利子負債は37億ドルと19年から26%減らしており、過剰債務には陥らないとみられる。

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