日本製鉄が二酸化炭素(CO2)排出ゼロを証明した鉄鋼製品の販売に乗り出す。同社が製造工程で削減したCO2を総量で積み上げ、減らした分を各販売品目に割り当てて「脱炭素鋼材」として顧客に買ってもらう。この鋼材販売を実現させるには、CO2削減と鋼材の品質を一挙両得にする強力なイノベーション(技術革新)がいる。その先兵になるのが電炉によって高級鋼材を量産する虎の子技術だ。

 「革新的な技術を設備に実装していくなかで、いち早くCO2実質ゼロの鋼材を顧客に届けたい」。14日、記者会見した日鉄の津之地大志営業企画室長は、こう説明した。

 鉄鋼業界は日本の産業部門によるCO2排出量の4割を占める。日鉄も2050年のカーボンニュートラル(炭素中立)を目指すが、実現には5兆円規模の投資がかかるとみられ、資金をどうひねり出すかが喫緊の経営課題となっている。

鉄鋼業界は日本の産業部門によるCO2排出量の4割を占める(日鉄の東日本製鉄所鹿島地区の高炉)
鉄鋼業界は日本の産業部門によるCO2排出量の4割を占める(日鉄の東日本製鉄所鹿島地区の高炉)

プレミアムを加味して販売

 そこで打ち出したのが、この「脱炭素鋼材」だ。鋼づくりの上工程から鉄鋼の塊を圧延して最終製品にする下工程まで、CO2の削減実績を総和で算定。その総量から任意の鉄鋼製品に削減分を割り当てて販売する。

 「マスバランス方式」と呼び、第三者の認証機関、日本検査キューエイ(東京・中央)がCO2削減を認証する仕組みを取り入れた。ちなみに同社は1992年に日本で最初に設立された民間企業による国際標準化機構(ISO)審査登録機関だという。

 CO2実質ゼロという付加価値があるため、「相応のプレミアム(割増金)を加味して販売する」(津之地室長)。2023年度上期から年約30万トンをめどに国内外で販売を始めるが、顧客にどこまで高価格の価値を認めてもらえるかは今後の交渉やマーケティングなど営業部隊の腕次第といえる。

 日鉄が産業界のコンセンサスを形成していくなかで、次に焦点になるのがこの脱炭素鋼材の供給量をどこまで増やせるかだ。日鉄の今後のイノベーションがその行く末を握る訳だが、23年からの販売に合わせてCO2削減の先兵となるのが電炉によって高級鋼材を量産する技術だ。

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