個人消費に占めるキャッシュレス決済の割合が過去最高になった。現金がお役御免になるのかと思いきや、意外にも小売店に置かれるレジ向け釣銭機の出荷台数は伸びている。現金処理機大手のグローリーはコロナ禍の2020年を除き、ここ10年出荷台数は毎年、前年を上回る。グローリーのビジネスからは日本のキャッシュレス化が進んでも小売り業界に残る問題が見え隠れする。

人手不足からセミセルフレジへの切り替えが進む(京王ストア府中店)
人手不足からセミセルフレジへの切り替えが進む(京王ストア府中店)

 東京都府中市のスーパーマーケット、京王ストア府中店。レジの店員がバーコードリーダーで商品の値段を読み取った後、消費者はその先にある現金精算機に紙幣を入れ、釣り銭を受け取る。

 同店にはこうしたセミセルフレジが5台置かれている。店員が現金精算するレジは1台だけだ。最近では6月に吉祥寺店のレジ4台をセミセルフレジに切り替えた。1年3店舗のペースで入れ替えており、27の総店舗数のうち11店舗でセミセルフレジを設置した。京王ストア営業本部の金子美晴氏は「将来的にはすべてセミセルフレジに切り替える計画」と話す。

 キャッシュレス化の進展にもかかわらず、セルフレジの需要は伸びている。政府が6月にまとめた2020年の日本の個人消費に占めるキャッシュレス決済の割合は19年比で2.9ポイント増の29.7%と、過去最高を更新した。統計のある10年以降で、伸び率も最大だった。交通系や金融機関、ネットサービス大手も入り乱れたキャンペーンもあってキャッシュレス決済は消費者に着実に根付き始めている。

セルフレジ向け釣銭機は5年で1.5倍に

 だが、そんな現金離れの時代でもセルフレジ向けを含めた釣り銭機で国内シェア6割と最大手のグローリーの販売台数は右肩上がり。コロナ禍の20年こそ前年比で減少したが、この10年間は毎年、前年比プラスと好調そのもの。同社は出荷台数を明らかにしていないが、20年は15年比で1.5倍に増えた。

 埼玉工場(埼玉県加須市)ではロボットを中心に8割の工程を自動化して釣り銭機を組み立てている。同社は受注が次々と舞い込み機種によっては在庫不足になっているという。スーパーだけでなく、最近では「ユニクロ」など衣料品店や家電量販店、ホームセンターなども雪崩を打ったようにセルフレジを導入している。

ロボットが釣銭機を組み立てる(グローリーの埼玉工場)
ロボットが釣銭機を組み立てる(グローリーの埼玉工場)

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