アジア最大のレコード盤工場が横浜市にあるのをご存じだろうか。1960年前後から製造をはじめ、CDというディスラプター(破壊者)に市場を奪われたときもアジアに唯一残る製造拠点として音源を吹き込み続けてきた。企業名は東洋化成(東京・港)。残存者利益を享受するだけでなく、近年はブランド力を前面に海外市場をも取り込んでいる。

 横浜市鶴見区にある東洋化成の末広工場。レコード製造の肝となる「カッティング」の工程では専門職人たちが専用機械の前に座り、全神経を音に集中させる。ここではマスターと呼ばれる録音されたアーティストの音源をレコードの「ラッカー盤」に吹き込む。

 アルミニウムに樹脂をコーティングしたレコードの赤ちゃんだ。サファイア製カッターを使い、レコード針の振動に対応する溝をラッカー盤に彫っていく。通電するとカッターヘッドが揺れ、渦巻状に溝が彫られていく。これが音が電気信号に変換され、入力されていく仕組みだ。

通電したカッターヘッドでラッカー盤に溝を彫ることで音を電気信号として入力していく

数十マイクロ単位で針が通る溝を彫る

 職人たちは周波数帯域の高低差に応じて電流や電圧をコントロール、マスターを落とし込んでいく。顕微鏡をのぞき込みながら20~80マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの精度で溝の深さを調整するとあって根気がものをいう。

 こだわりのあるアーティストはその場に立ち会い、例えば「ベース音をもう少し上げて」などと職人とコミュニケーションしながら納得のいく楽曲を作り上げていくのだという。

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