丹念なものづくりが生命線

 針の先端に穴をあけレコード面と接するダイヤモンドチップを埋め込んだり、穴の開いたゴムを針に差し込んだり、完成した針を一本一本レコードに落として音質を検査したりと、これまた各工程に職人がいる。音検査の谷口みゆきさんにいたっては、25年以上毎日ヘッドホンを耳に音を聞き分けている。森場道子さんは針組み立て歴15年の古参だ。職人の多くはみな女性。1㎜以下の精密作業に欠かせない繊細な手仕事や、一心不乱に1つの作業に専念するメンタリティーが品質を支えている。

 JICOのブランド価値を支え、150年以上にわたって看板を守り続けてきたのは、まさにこの「時間をかけて丁寧に作り上げる」哲学だという。正直に書くと、デジタルイノベーションもなければ、自動化といった生産技術もない。古びた機械はどれも年季が入っていて「いつの時代やねん」と突っ込みたくなる。だが、その変わらないものづくりこそが唯一無二の経営資源であり、だからこそMORITAのような野心的な逸品を生み出せるのだ。

「1本でも欲しい人がいれば」

 1980年代のCD台頭を受けて事業をやめようとは思わなかったのだろうか。その問いかけに「私と兄はやめるつもりだったんですが」と仲川社長は言う。先代の父親が「もう設備の減価償却は終わっているし、1本でも欲しいという人がいれば続けよう」と踏みとどまったのだという。売り上げ激減を乗り切るため、針の加工技術を転用し、医療・歯科用のダイヤモンド製器具や計測器、CD・DVDのレンズクリーナーなどを開発。OEM(相手先ブランドによる生産)メーカーとして存続してきた。

 売上高と営業利益は20年3月期まで5期連続で伸びているという。受注残に工場を拡張してもっと人を雇ってもよいものだが、「背伸びはしない。巨利は追わないんです。必ず痛い目にあう」と仲川社長はきっぱりと言う。MORITAも周囲から「5万円で売れますよ」などともてはやされたが、価格は2万円とした。清貧の経営哲学も息づいている。

 後継者の育成がJICO最大の経営課題なんだろうな。取材後の帰路、旋盤加工に没頭する森田さんの姿を思い浮かべながら思った。今、手塩にかけて育てているポスト森田の社員がいるが、人材構成は砂時計型で35~45歳の中堅社員が極めて少ない。人材育成は仲川社長の双肩に重くのしかかっている。

 一針入魂。気負ったところがみじんも感じられない、さりげないけどきらっと輝くJICOの経営から学べる要素は多くある。

この記事はシリーズ「上阪欣史のものづくりキングダム」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。