森田さんがたどり着いた木材は柿の木だった
森田さんがたどり着いた木材は柿の木だった

MORITAブランドで勝負

 黒柿は自然の木。硬さの程度にばらつきがあったり、水が通る細かい筋がランダムに通っていたりする。木の感触を見極めて最も高品位な部分を削り出す技能が求められるが、森田さんの手にかかれば、レコードが喜ぶカンチレバーに生まれ変わる。

 驚くべきはこの逸品は最新鋭の機械やデジタル技術ではなく、匠が20~30年使い古してきた古い工作機械や治工具だけで世に送り出したことだ。仲川社長はこの長い年月を通して生まれたベテランの技にこそ価値があると確信した。そこで「MORITA 黒柿」という新ブランドで勝負することを決意。19年から受注生産を始めた。

 これとは別に通称「牛殺し」という天然乾燥に5年もかけたカマツカの木で製作したMORITA品も20年に売り出した。音楽家の間では「迫力と緊張感がある音色を引き出している」「低音が力強い」との声が届いている。MORITAブランドは月に40~50本の注文が舞い込んでおり、海外からも右肩上がりで増えている。

新温泉町に“キャンディーズ”がいた

 森田さんはずばぬけた匠だが、職人はほかにもいる。レコード針の部品の加工や成形を手掛けるのは「JICOキャンディーズ」。記者が勝手に名付けたおばちゃん3人組だ。

 小谷久仁子さんは針をおさめる金属と樹脂でできた「ノブ」という部品を射出成型機で成形するプロ。この道38年以上という。池田恭子さんは340種類に及ぶ成形用の金型を管理・メンテナンスするベテランでホルダーづくりにたけている。森本映子さんはレコード盤の溝から伝わる振動を上手に伝える微小なゴム部品を成形する。

 ゴムに至っては材料を練り混ぜるところから手掛けている。というのもゴムが硬すぎると振動が伝わりにくく、柔らかすぎると伝わりすぎるため。練り合わせにこだわらないと音に影響するのだ。「どの部品も品質管理ができていないと針の性能を引き出せない。まさに三位一体ですよ」と仲川社長は力説する。

「JICOキャンディーズ」の面々
「JICOキャンディーズ」の面々

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