木で作るレコード針

 ここでレコード針について簡単に説明したい。レコード針の先にはダイヤモンドのチップが埋め込まれている。このチップがレコード盤に刻まれた溝に入り、振動を読み取って電気信号に変換。楽曲を奏でる。この針先を支えるのが「カンチレバー」という芯で、音の振動を伝える役割を果たす。レコード針の中でも音質を左右する最重要部品だ。

繊細な手仕事が品質を支える
繊細な手仕事が品質を支える

 カンチレバーに使われる材料は一般的にアルミやサファイアなどの金属、鉱物だ。良質な音を引き出すには「硬くて、軽くて、よくしなる」という3条件を満たした材料が最適とされる。

 熟練の森田さんはある日、工場内に落ちていた木材片の年輪を見て、自分の年齢と重なると思い、カンチレバーを木にしてみてはどうか、と思い至った。自ら重ねてきたキャリアを新素材に投影したのだ。だが、針といえば金属というのが常識。そこから大きく逸脱した森田さんの着想に、最初は仲川社長も耳を疑ったという。

 東京・新木場の材木問屋からヒノキや樫(かし)の木などいろいろな木を仕入れ、家具屋で一定の大きさに加工。それを使い古された専用の卓上旋盤で100分の1㎜単位で削り込み、感触を確かめていった。来る日も来る日も加工すること2年。匠(たくみ)が導き出した最適な木材は柿の木、しかも内部に黒い文様が入った「黒柿」と呼ばれる希少な古木だった。

100分の1㎜の精度で加工する
100分の1㎜の精度で加工する

 実は森田さんはプロ並みに音の質を聞き分ける力はない。良質の音が出る「3条件を満たしている」と自らの手と目と感性でたどり着いたのが黒柿だった。完成したレコード針は長さ5㎜、針の先端チップが0.2㎜という代物だ。

 音の良しあしが分かる社員のお墨付きも得た後、東京・秋葉原で2019年春に開かれたお披露目会。集まった音楽関係者からは、JICOの看板製品「SAS針」より、「高音域がクリアに出ている」「これまでにない艶やかな音色」と称賛された。

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