JICOは2200種類に及ぶレコード針を手掛けている
JICOは2200種類に及ぶレコード針を手掛けている

 JICOが手掛けるレコード針はおよそ2200種類にも及ぶ。テクニクスなど30のターンテーブルに対応しており、1本ずつ受注生産。針を取り付けるプラスチックや金属部品など大半を自社で手掛け、まさに「一針入魂」を体現している。愛用者にはミュージシャンの山下達郎氏や作家、村上春樹氏が名を連ね、全国からレコード愛好家が集まる岩手県一関市の有名喫茶店「ベイシー」のオーナー菅原正二氏もその1人だ。針メーカーでは山形県にナガオカという実力派がいるが、東の横綱が同社だとすれば、西はJICOといったところだろうか。

社内きっての匠

 折からの世界的なレコードブームで月産本数は5000~6000とここ4年ほどずっとフル稼働が続いている。受注残は優に1年はあるといい、アマゾン・ドット・コムのサイトで購入すると1カ月ほど待たせてしまっているほどの忙しさ。実に売上高の8~9割が海外向けだ。

 「ぜひ会ってほしい人がいるんです」。沿革の説明を受けるや否や、仲川社長はおもむろにそういって記者を工場(こうば)の中に案内した。

 「森田さん、ちょっといいですか?」。森田さん?そういえば新温泉町に着いてお昼ごはんに寄ったすし屋で大将が「JICOに行くの?あそこの森田さんはこの町で知らない人はいない」と話していた。

森田さんのキャリアは50年以上。治具や工具も自ら作る
森田さんのキャリアは50年以上。治具や工具も自ら作る

 森田耕太郎さん、73歳。一見優しそうな風貌だが、太い眉毛と額に刻まれたしわ、そして鋭い眼光が職人ぶりを物語っている。森田さんは1966年に19歳で入社後、レコード針を極めた大ベテランで社内でも別格の存在だ。仲川社長は必ず毎朝森田さんの職場にあいさつに行く。

 「こんな針できないだろうか」と営業から持ち掛けられると、デッサンから図面、金型までをまず脳内に描く。そこから用紙に落とし込んでできるかを判断する。針製造のために自分で治具や工具、計測器も開発、製造するというから驚きだ。レコード針について知り尽くしているだけに社員はみな森田さんを師と仰ぐ。

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