「乗り越えられない壁はない」

 落胆したのはロケット関係者だけではない。今回のH3には地上を観測する先進光学衛星「だいち3号」が搭載されていたが、あえなく失ってしまった。

だいち3号は高精度な撮像機能を生かした災害監視などの役割が期待されていた(写真:JAXA提供)
だいち3号は高精度な撮像機能を生かした災害監視などの役割が期待されていた(写真:JAXA提供)

 災害監視や地理空間データの整備などの役目を担う同2号の後継機だ。どれだけ細かく画像を解析できるかを示す「分解能」は0.8メートルと初代の3倍の性能を持ち、しかも幅70キロメートルと広域を観測できる。「ここまで広い視野と高い分解能を両立させた衛星は世界でもまれ」(だいち3号を製造した三菱電機)という。

 「申し訳ない」。総合指令棟で、3つ離れた席に座っていただいち3号のプロジェクトマネージャに岡田氏は頭を下げたが、マネージャは相当ショックを受けていた様子だったという。現在運用中のだいち2号は設計寿命を迎えている。JAXAの山川宏理事長は「2号は当初予定を超えて運用しており、3号の軌道投入の失敗は大きな影響がある。どうやって挽回していくかはこれから検討する必要がある」と話した。

 また、H3は米国主導の有人月探査「アルテミス計画」や、火星の衛星から試料(サンプル)を地球に持ち帰る日本主導の国際プロジェクト「MMX」にも役立てる青写真を描いていた。しかし、今回の失敗で日本が参画する宇宙開発の歩みが停滞するのは必至。そうなれば欧米や中国に劣後しかねない。

 破格の価格で世界各国から次々と打ち上げを受注するスペースXは23年中に超大型ロケット「スターシップ」を打ち上げる計画で、エンジンの再利用でもはるか先を行く。欧州最大手のアリアンスペースもコストを大幅に削減した新型の「アリアン6」を23年中に打ち上げる計画だ。

 「乗り越えられない壁ではないと思う。みんなで力を振り絞って乗り切りたい」。後がない状況に追い込まれたが、それでも岡田氏は会見で前を向いた。

発射台から飛び立つH3ロケット。この後、事態は暗転した(写真:共同通信)
発射台から飛び立つH3ロケット。この後、事態は暗転した(写真:共同通信)

 失敗から得た糧がないわけではない。LE-9のほか、衛星を格納する新型フェアリング、新機構の発射システムなどは思惑通りに作動した。

 世界で宇宙開発競争が加速するなか、これ以上の遅れは日本の宇宙産業にとって命取りになりかねない。原因究明は早急に進める必要がある。しかし、対策を焦ってはリスクの見落としにつながる。捲土重来(けんどちょうらい)を期すJAXAと三菱重工だが、この先極めて難しいプロジェクト管理を迫られることになりそうだ。

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