宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した新型ロケット「H3」の初号機打ち上げが失敗に終わった。米起業家イーロン・マスク氏が率いる米スペースXなどとの競争を勝ち抜くべく技術の粋を集めたが、従来型と制御システムをほぼ変えていない2段目の機体・エンジンに落とし穴が潜んでいた。1段目と2段目の切り離し成功から飛行停止までの「魔の530秒」に何があったのか。背水の陣で巻き返さなければ世界の宇宙開発競争からふるい落とされかねない。
「原因究明を急ぎ、いち早くリターン・トゥー・フライト(再飛行)を目指したい」。7日午後、打ち上げ失敗を受けて記者会見したJAXAの岡田匡史H3プロジェクトマネージャは憔悴(しょうすい)した様子でこう語った。

H3は日本の主力ロケット「H2A」の後継機。打ち上げ費用をH2Aの1回当たり約100億円から半減するとともに、打ち上げサービスの受注から発射までの期間も約1年と従来の半分にする目標を掲げていた。
スペースXなど世界のライバルと比べ割高な価格を引き下げるため、信頼性の高い自動車用や3Dプリンターで造形した部品などを積極採用。部品点数もH2Aから2割ほど減らし、基幹となる1段目の主エンジンを中心に設計を抜本的に見直した。初打ち上げが当初予定から2年遅れるなど開発は決して順調ではなかったが、コストと信頼性という二律背反を両立させた自信作のはずだった。
凍り付いた管制室
7日午前10時37分。種子島宇宙センター(鹿児島県)からの発射後、飛行は順調そのものだった。
発射直後、すぐに訪れる難所であり、開発陣が最も神経をとがらせていた第1段主エンジン「LE-9」は予定通り燃焼。LE-9の両脇に位置し、固体燃料を燃やす補助ロケットブースターも発射から116秒後というドンピシャのタイミングで分離された。

その後、LE-9もスケジュール通りに燃焼を終えお役御免に。1段目と2段目は正常に分離された。
ところが、直後に管制室は凍り付く。2段目のエンジンが火を噴かない。着火のデータが送信されてこない事態に「何が起きたかよく思い出せないが、呆然(ぼうぜん)となった」(岡田氏)。刻一刻と時が過ぎる中、「液体水素を載せた危険な機体をこのまま飛行させることはできない」(JAXA)と判断、機体を破壊する指令信号を出した。
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