孫社長が事業環境の悪化を「嵐」と表現した21年11月から1年がたったが、「保守的」な想定をおいて過去の例と照らせば、まだ1年以上は好転しないことを、孫社長およびSBGは覚悟し始めた可能性が高い。ビジョンファンドの累計投資損益は、22年9月末時点でマイナスとなり、投資会社としていわば振り出しに戻った。これが「冬ごもり宣言」の背景だろう。実際、後藤CFOも11日の説明で、「潮目はいつか変わるが、潮目が変わったのを確認してから動けば十分と判断している」との見方を示した。
市場の反応もシビアだ。決算発表と記者会見を受けた翌営業日の11月14日、SBGの株価は前週末11日の終値から一時は1000円近く下落した。18日は11日終値比で13%も下落となった。5000円を割っていた10月上旬から、11月上旬には7000円台まで上昇していただけに、乱高下状態といえる。少なくとも市場は「冬ごもり」を好意的には受け止め切れていない。
また、決算上でもSBGは節目を迎えた。後藤CFOが以前、「アリババ株を持っているからこそ、ユニコーンを専門にした投資会社化が可能になった」と位置づけていたアリババ株の一部を手放し、持ち分法適用会社から外れたのだ。
これが意味するポイントは大きく2つ。目先では、売却に伴う利益を計上して23年3月期のSBGの損失を大きく相殺する要因になること。もう1つは、今後アリババ株は、他の多くの投資先と同様に、期末毎の時価評価での変動が「評価損益」として損益計算書に反映されることだ。資産の塊としては約4兆5000億円と巨大で、資金調達の担保として使い続けられる半面、株価変動がそのままSBGの損益に直結する要因となる。
2022年8~9月にかけて、アリババ株の関連取引を実施した結果、SBGが保有するアリババの議決割合が20%未満に減少した。この「放出」に伴い、計5兆3716億円もの巨額の利益が計上された。
その内訳は、単なる売却益ではなく「再評価益」が大半を占める。国際会計基準では、連結子会社や持ち分法適用会社など、出資先企業のグループ内の立場が変わると、企業価値を再計算する。伊藤忠商事がファミリーマート(当時はユニー・ファミリーマートホールディングス)の株式を買い増して、連結子会社化した際は、再評価益約1400億円の利益を計上した。SBGでは、2020年4~6月期に米通信大手Tモバイル株の一部を売却して再評価益2960億円を計上した。
00年に出資したアリババは、出資先の中でも最も成長した企業の1つだ。再評価益はあらかじめ計上していた資産価値(簿価)と今回の株価を比べて算出し、約4兆円にも上った。アリババの成長が一気に顕在化したといえる。一方、アリババの株価は9月末にかけて下落。その分の評価損失を約1.1兆円計上した。プラス5.4兆円からマイナス1.1兆円を差し引いた4.3兆円が「アリババ関連利益」として最終利益に貢献した。
今後はアリババの利益貢献の仕方が変わる。持ち分法適用会社では、アリババの最終利益に対し、SBGが保有割合分を取り込んでいた。これからは金融資産として、株価の変動が利益に反映される。従来はアリババ株の価値がうまく利益に計上されなかったため、SBGはLTV(保有株式価値に対する純負債の割合)やNAV(時価純資産)といった経営指標を掲げてきた面もある。後藤CFOは、「こういう利益(再測定益)はいいとか悪いではないと思っている。グループ全体のアセットを常に活用しながら、決算・財務を組み立てている」と話した。
巨額の再評価益を計上する「カード」を切ることができるのは事実上1回のみ。今後はアリババ株の変動が利益に直接影響するため、ある意味で分かりやすくなる。ただ、中国経済への不安から株価は揺れ動く。今でもジェットコースターのようなSBGの四半期利益の上下が1段と激しくなる可能性がある。いわば「含み益」だった再評価益を計上し、これ以上はアリババ株に頼れない「冬ごもり」。「アームに集中する」という孫氏にとって雌伏の期間になるのだろうか。
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