「あれは失敗でよかった。まあ、何度も失敗しているので、どれが直接利いているか分からないが、あのときの失敗があったから、成功を手にできた。なんて運がいいんだ!」

 楽観的というか、何も考えていないというか……。

 失敗を引きずらず、すぐまた行動に移して、いずれ成功にたどり着くことを、「天使のサイクル」と呼んでいます。

 このように見てくると、本当の意味での「運のいい人」や「運の悪い人」はいないのではないかと思えます。むしろ、「運をつかむチャンスは誰にでもある」。桜木が早瀬に「お前は運がいい」と言ったのも、そういう意味だと解釈できます。

 ただし、物事の捉え方と行動特性によって、「運をつかめる人」と「運を逃す人」がいる。つまり、チャンスは誰にでも平等にあるのに、逃げ続けている限り、成功はつかめない。

 それが「運のいい人」と「運の悪い人」の分かれ目なのかもしれません。

「保全性」と「拡散性」、「運」をつかむそれぞれの方法

 「運/不運」の感覚に直接関与する、保全性の「記憶力」と拡散性の「忘却力」。これについて考察を進めてみます。

 なぜ、保全性には「記憶力」が、拡散性には「忘却力」が備わっているのかと言えば、それぞれが生き延びるために必要なメカニズムだからです。

 「保全性」という因子は、農耕民族的な思考を持っています。

 農耕民族は、より良い土地を見つけて、その土地に定着し、灌漑(かんがい)をしながら稲や野菜を植え、収穫していきます。日照りの年、多雨の年、台風が多い年など、年ごとに異なる問題に直面しながらも、それぞれを記憶して、少しずつ改善していくことが生き延びる術(すべ)となります。つまり、生き延びるために、記憶力を研ぎ澄ませてきたのです。

 しかも、集団で暮らす彼らは、可能な限り無駄なく収穫していきたい。キーワードは「効率」です。

 「保全性」とは対照的に、狩猟民族的な思考をするのが、「拡散性」という因子です。

 狩猟民族の動き方は、獲物になる動物の動向次第です。「去年はこうだった」「一昨年は」などと記憶するよりも、その瞬間瞬間に動くことで生き永らえてきました。

 つまり、過去を記憶するより、先入観を持たないために「忘却する」ことを選んだ。そのほうが自由に動けたのです。

 しかも、狩猟民族は、どちらかと言えば単身や少数で動きます。右に行くのか、左に行くのか、“勘が当たった”人しか生き延びていません。

 狩猟民族にとって大事なことは、物事の改善よりも、ピンポイントで「獲得する」ことです。したがって、キーワードは「効果」です。

 また余談ですが、拡散性の辞書には「後悔という言葉がない」と思ってください。

次ページ 「保全性」が運をつかむにはどうするか