外食業からの卒業
コロナ禍で大きな痛手を被った外食業界。特に来店して食事を楽しむ「イートイン型」のレストランや居酒屋の売上高は落ち込んだ。ただ、外食の苦境は今に始まったことではない。コロナ前から外食産業の市場規模は1997年の29兆円をピークに、2000年代は25兆円を割り込むなど「長期低迷」に入り込んでいた。
人口減少や少子高齢化、コンビニエンスストアや食品スーパーなど「中食」との競争、チェーン業態への「飽き」、人手不足による人件費の高騰――。こうした数々の構造問題を背景に、19年に飲食店の倒産数は過去最高を更新。ここにコロナ禍が重なり、20年はさらに倒産が増えている。投資余力は乏しくとも、ますます厳しくなった経営環境を乗り越えるには、改革の手を打つしかない。33年続いた業態を刷新するプロントの危機感は、業界全体に通じる。
外食店約70店やブライダル事業を運営するゼットンも、改革を急ぐ1社だ。鈴木伸典社長は、「将来的には外食業の枠を飛び越え、街づくり企業に成長させていきたい」と語る。

その柱の1つが、「公園リノベーション事業」だ。ゼットンは19年から東京・江戸川の葛西臨海公園の活性化に取り組んでいる。地域の住民が集まれる場所として、バーベキュー場やカフェを新設し、結婚式の運営にも手を広げた。今後は、ランニングステーションやレンタルサイクルなど、外食以外の設備も整えていくという。
外食産業は高度経済成長期以降、スケールメリットを生かしてチェーン店が急拡大したが、次第に似通った店が増えたことで低価格競争が激しさを増し、コスト低減に腐心するあまりに店の魅力がそがれた。
顧客を十分に深掘りできないまま、新店・新業態の開発と既存店の改廃に依存するようになった。品質の安定という「安心感」は無個性になり、客を引きつけた「安さ」は、コロナ禍で「あえて出かける理由」と相反するようになった。2000年代に勃興した新興外食企業も短期化した流行に苦しんでいる。
こうした悪循環から抜け出すにはどうしたらよいのか。鈴木氏は、「単に公園を出店先に選んだのではなく、公園の魅力を高めるために外食というコンテンツを活用するという発想だ」と語る。
来店客を引きつけるための店舗開発で培ったノウハウを、より広いエリア開発に生かす。公園は近くに住む地域住民の日常使いが取り込める。公園の人気が上がり、街の魅力が高まれば、地元以外の利用者も増える。好循環が生まれて公園という舞台が強さを増せば、せわしない店舗の改廃から解放される。人々の生活に根付くには、外食というコンテンツは欠かせないという理屈だ。
ゼットンが狙うもう1つの柱が、「アロハテーブル」を軸にしたデータマーケティング事業だ。主力外食ブランドの1つ、アロハテーブルは国内約25店舗を展開し、コロナ前の売上高は約30億円、年間利用者は約150万人に上る。
「ハワイ好きなら知らない人はいないという圧倒的な知名度と、明確な店舗コンセプトから得たデータ」(鈴木氏)を生かし、アパレル、雑貨、フラダンスやウクレレの教室、マラソンやヨガなどのイベントと連携できるとみている。今年に入り、名古屋工業大学と人工知能(AI)を活用したデータ分析を行う契約を結んだ。こちらも流行の短期化や価格競争から距離を置こうという試みだ。
プロントコーポレーション、ゼットンの両社とも自社の強みを問い直し、顧客のファン度を高めるための手を打ち出そうとしている。外食業の緩やかな低迷はコロナ前から始まっていただけに、苦しくとも今踏み出さなければ、先はますます見通せなくなる。
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