カフェ&バー「プロント」など全国で約320店舗を展開するプロントコーポレーション(東京・港)は4月10日、ブランドを一新した1号店を、東京・銀座に開いた。昼は働く20~30歳代の男女をターゲットにした洗練された喫茶、夜は入り口にのれんをかけた酒場という全く違った業態を入れ替えて運営する。

 プロントは1988年の創業以来、昼は喫茶とランチ、夜はアルコールと時間帯を問わずに入りやすいシームレスな店づくりを売りに成長してきたが、今回のリブランドでは、あえて昼と夜の線引きを明確にした。

プロントはリブランドで、昼は働く男女が使うおしゃれなカフェ、夜は酒場と全く別の業態を1店舗に凝縮した (写真:陶山 勉)
プロントはリブランドで、昼は働く男女が使うおしゃれなカフェ、夜は酒場と全く別の業態を1店舗に凝縮した (写真:陶山 勉)

 なぜ30年超の成長をけん引してきたブランド刷新を決めたのか。コロナ禍で「誰のための何屋なのか」を見つめ直した結果だという。

「一人勝ち」どころか「力負け」

 「緊急事態宣言が解除されれば、一人勝ちできる」

 2020年4月に初めて発令された緊急事態宣言の解除が迫る頃、プロントコーポレーションの片山義一取締役はこう予想していた。宣言が解除されても、感染の不安が残るなかでは繁華街の人出はすぐに戻らない。となれば、仕事帰りに駅前でさくっと飲めるプロントは、コロナ禍の外食需要の受け皿になれるはず、という見立てだった。

 しかし予想は完全に外れた。40歳代以上の管理職クラスのオフィスワーカーは立場上、外食を敬遠し、宣言中のフラストレーションを解放した20~30歳代の若者にはプロントは選ばれなかった。片山氏には、カフェとして競合するスターバックスコーヒーは順調に客足が戻っているように見えたが、プロントは6割程度しか戻らなかった。

 フラペチーノなどの商品で「喫茶店といえばコーヒー」という概念を覆し、新たな顧客層を開拓してきたスタバのブランドは強い。コロナ禍で減った外出を楽しみたい人々は、「喫茶店」ではなく「スタバ」の場所を調べた。そこにプロントは入り込めなかった。

 片山氏は20年4月にプロントに出向する前、親会社のサントリーグループで外食の業態開発などに携わってきた。マーケティングの専門家として予想を外したショックと同時に、「プロントはこんなにも選ばれないのか」という現実に打ちのめされた。コロナ禍で外食の回数が減り、「あえて行きたい店選び」を意識し始めた消費者の目には、駅前にある便利なカフェ&バーは、「どっちつかず」に映ってしまった。

 「このままではコロナ禍が収まっても戦えない。資金が十分ではないなか、どんな手が打てるのか」。片山氏は、プロントの強みを、朝から晩まで営業を続けられる運営力と見定めた。ならば昼と夜を別々に切り分けて、それぞれ選ばれる業態を打ち出そう。全く正反対の業態が同居するギャップが誘客につながるという期待もあった。

ピンクのネオンに、ノスタルジックなメニュー表が、古き良き酒場を思い起こさせる (写真:陶山 勉)
ピンクのネオンに、ノスタルジックなメニュー表が、古き良き酒場を思い起こさせる (写真:陶山 勉)

 昼のカフェは「働く20~30歳代の男女」をターゲットに、長期的なブランドづくりを意識した。米国西海岸発のチーズケーキを日本で初めて提供するなど、従来は保守的で無難だったデザートメニューをとがらせた。電源やWi-Fiを充実させ、仕事の打ち合わせにも使いやすくした。

 午後5時ごろを境に、店前にのれんがかかり、ピンクのネオンが店頭、店内で光り出す。「タコサンウインナー」など定番メニューが並び、酒場らしい垣根の低さが、「気楽に集まる楽しさ」を感じさせる。銀座という街も、昼は観光と買い物、夜は繁華街という二面性を持つ。店と街の雰囲気が合うと考え、1号店に選んだ。

 20年8月末、片山氏が、役員が集まる経営会議でリブランドを提案すると、会議室は静まりかえった。30年超続いたブランドを転換する判断は容易ではないはずだったが、数秒の沈黙後、竹村典彦社長が「おもろい」と一言つぶやき、方向性は固まった。

 ここ数年、プロントは増収増益を続けていたが、既存店の売り上げは減少傾向にあった。新店効果で負の側面が見逃されてきたが、「現場の社員はカフェ&バーという業態に限界を感じていた」(プロントコーポレーション社員)。

 片山氏は、「今苦しくても戦う力を蓄えなければ、いざコロナが明けて勝負の時が来たときに手遅れになる。キャッシュを生み出すビジネスモデルが作れれば、借り入れは怖くない」と語る。コロナ禍でつまびらかになった危機感が原動力になっている。

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