コロナ禍で外食業界が苦しんでいる。中でも最も苦戦しているのが居酒屋業態だ。東京都心では「午後8時閉店では営業にならない」と休業している店舗も多い。だが、多くの企業や店舗は試行錯誤をしながら、コロナ後に向けて動き始めている。「塚田農場」などの居酒屋を中心に約200店舗を運営するエー・ピーホールディングス(APHD)の経営幹部に密着し、その内情に迫った。

 4月上旬、東京・池袋。コロナ禍もあって人通りが少ない繁華街にある雑居ビルの1室で、APHD九州塚田農場事業本部の新年度方針発表会が始まろうとしていた。同社は昨年6月、本社を池袋駅前に移転した。本社とはいえ、飲食店街の雑居ビルのワンフロアなのでスペースは広くない。中継のために集まった社員は5人ほどだ。

 「始めていいかな」。午後1時、APHDの最高執行責任者(COO)、野本周作が声を上げた。カメラの向こうではZoomの会議システムを通して、事業本部の全社員100人以上が話を聞いている。

4月上旬、APホールディングスの野本周作COOは東京・池袋の本社から社員に向けて新年度の方針を発表した
4月上旬、APホールディングスの野本周作COOは東京・池袋の本社から社員に向けて新年度の方針を発表した

 「1、2月の緊急事態宣言を耐え忍んだと思ったら、『まん延防止等重点措置』で不安な日々だと思う。でも今残った仲間で2022年に大復活を遂げたい」。野本はまずこう切り出した。中継をしている会議室の奥では3人の事業部の社員らが、ノートパソコンの画面を見つめている。

 「すごい1年でしたよね。債務超過にもなった。でも今は資金を調達できている。会社がつぶれるんじゃないかという心配はしなくていい」。野本は社員たちの不安を払拭するように語りかけていく。それほど同社を含む外食産業にとって厳しい1年だった。

 APHDの主力ブランドである塚田農場は、最初の緊急事態宣言が発令される直前の昨年4月2日に全店を一斉休業とした。その後、営業を再開したものの、APHDの連結売上高の5割前後を占める主力ブランド、塚田農場の既存店売上高は前年同月比で5割以上落ち込む月が続いた。

 通常の外食企業であれば来店客が減った分、食材の仕入れを減らせばある程度の「止血」はできる。だが、APHDは農場や養鶏場といった生産拠点を自前で持っており、仕入れをすぐに止めることができなかった。顧客をつくり、他店との違いを打ち出せる武器がコロナ禍で思わぬ重荷となった格好だ。

 「地鶏はコロナ禍でも育つ」(野本)。昨年9月末までに債務超過に陥った。

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