前回見たように、競技用自動車の企画・設計を手掛けるタジマモーターコーポレーション(東京・中野)と出光興産が、ガソリンスタンドを起点とした新たなモビリティーサービスに2022年から参入する。その柱となるのが、最高速度が時速60キロ、航続距離は約120kmの4人乗りの超小型電気自動車(EV)だ。車幅は約130cmと大人2人が座っても肩は触れ合わないほどだが、通常の乗用車に慣れた人であれば少し狭く感じるかもしれない。

 両社は出光系列の全国6400カ所のガソリンスタンドに超小型EVを設置し、ちょっとした買い物や子供の送迎など5~10キロ圏内の移動の足として使ってもらう狙いだ。

出光興産と共同開発する超小型EV

 この超小型EVの企画・開発を手がけるタジマを立ち上げた田嶋伸博会長は、米国の過酷なカーレース「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」のドライバーとしても知られる。同レースには1988年から参戦し、2006年から11年まで6年連続で優勝した田嶋氏は、「モンスター」の異名をとる。

田嶋伸博(たじま・のぶひろ)氏
1983年にモンスターインターナショナル(現タジマモーターコーポーレーション)を設立、競技用車両の開発・製造を長年手がけてきた。レースでの体験や、ベネッセ創業者の福武總一郎氏の後押しもありEVの車両開発をスタート。12年からはEVでレースに参戦し、国内で電気自動車普及協会の代表理事を務める。海外遠征中には「モンスター」と声をかけられることも。好きなお酒はワインだが、レース前は減量して臨む。

 パイクスピークでは富士山よりも高い標高4000メートル以上の山を走るため、時に凍った地面を駆け上がり、猛スピードで下っていく。参戦の回数を重ねるごとに、田嶋会長が気になったことがある。凍ったコースの面積が、徐々に縮小しているのだ。

 例えば100メートルを下って一気に右へ90度曲がるコーナー。凍った地面でスピンしないようスピードを抑えて走行するが、凍っていない部分が増えているためスピードやブレーキの感覚が毎年少しずつ変わってしまう。気候変動の影響がこうしたところにも出ているのだ。

 12年、内燃機関を使ったレースカーから、EVを使った競技用車両の開発への移行を決めた。環境問題も意識するが、レーサーとしての本能もそこにはある。「EVというモーターと制御技術を使った新たなレースカーの開発に挑戦したくなった」と田嶋会長は話す。

 今回、出光興産と共同で開発する超小型EVに設定した価格は1台あたり約150万円。トヨタ自動車が20年に発表した二人乗り超小型EV「C+pod(シーポッド)」の約165万円を下回る水準だ。車体に使われる部品を白く染めることで塗装工程を省くなど、コスト削減の工夫を凝らしている。

 「限界に耐える究極の車」を追い求めてきた田嶋会長がなぜ、日常の足となる廉価型EVの開発に挑戦するのか。そこにあるのは、ガソリンスタンドの将来に抱く危機感だ。

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