栃木県大田原市の須賀川地区。600人ほどが暮らすのどかな中山間地域で2019年12月、ガソリンスタンドが閉業するという話が突如持ち上がった。長年スタンドを営んできた店主が家庭の事情でこの地を離れることになったが、店に後継者はいなかった。

 電車の通っていないこの地域では、住民の多くが車や原付きバイクで移動する。生活の足を支えるガソリン、農機具や山仕事の機械を動かす燃料、冬を越すための灯油。石油製品を使う場面は生活のあちこちにある。

 「ガソリンスタンドがなくなったら困る」──。高齢者を中心に、地域住民の間で不安が広がった。

栃木県大田原市にあるガソリンスタンド「かなめ須佐木SS」。一時は閉鎖の話が持ち上がったが、地域住民の有志が新会社を設立して運営を引き継いだ
栃木県大田原市にあるガソリンスタンド「かなめ須佐木SS」。一時は閉鎖の話が持ち上がったが、地域住民の有志が新会社を設立して運営を引き継いだ

 国内を見渡せば、こうした風景は決して珍しいものではない。資源エネルギー庁によると、1994年度のピーク時に6万カ所以上あった給油所の数は右肩下がりを続け、2019年度末時点で2万9637カ所と半減した。直近3年間では、1日平均1.7カ所の給油所が廃業・撤退に追い込まれている。

 給油所の減少が続く背景にはいくつかの理由がある。

 1つはガソリンの需要減少だ。自動車の燃費性能向上や軽自動車の普及などにより、国内では04年以降ガソリン販売量が減少傾向にある。今年1月には政府が35年に国内の全ての新車販売を電動車とする方針を打ち出したため、今後さらに需要が減少することは避けられない。

 電気自動車(EV)の普及で先行する欧州では、既に充電設備の数がガソリンスタンドの拠点数を超えた。石油流通業を専門とする桃山学院大学の小嶌正稔教授は「国内の給油所数は30年に2万カ所程度、40年には1万3000カ所を下回るのではないか」と予測する。

 事業者を悩ませるもう1つが、後継者難だ。ガソリンスタンドを運営する事業者の約97%は中小企業。ENEOSホールディングスや出光興産などの石油元売りから石油製品を仕入れ、「特約店」「販売店」と呼ばれる店舗で販売するケースが多く、中でも1カ所の給油所だけを運営する零細企業が7割を占める。

 その多くは地域に根差して長年店を続けてきたが、経営環境はじわじわと悪化している。店主の高齢化や後継者の不在、さらには老朽した設備の修繕費が捻出できないなどの理由から、やむを得ず店をたたむといった例が増えてきている。全国石油協会の調査によると、19年度時点で約1割の事業者が廃業を検討しているという。

 50年のカーボンニュートラルなど、政府が掲げる目標を達成しようとするならば、給油所の減少は必然の流れだろう。事業者の一部には「もうガソリンスタンドには先が無い」と事業継続を諦める雰囲気も漂う。ただ今もなお、地域の生活を支えるインフラとして必要とされているガソリンスタンドも少なくない。

僧侶が中心となりガソリンスタンド存続へ

 冒頭の、閉業の話が持ち上がった大田原市のガソリンスタンドは商店を併設しており、地域住民にとっては燃料の調達先としてだけでなく「地域の小売店」としての存在意義も大きかった。車を10km以上走らせ、峠を越えた先に別のガソリンスタンドもある。通勤や買い物で街へ出たついでに給油することができれば不便ということもない。ただ、70歳以上の高齢者が多く暮らすこの地域では、近場で日用品や食材を手に入れられる商店の存在が貴重で、ここへしか買いに来られないという住民も多くいた。

給油所で働く地域の男性。地元住民が一丸となって運営を支える
給油所で働く地域の男性。地元住民が一丸となって運営を支える

 何とかガソリンスタンドを存続できないか──。地域住民が頼ったのは、地元の寺院「雲巌寺」だ。臨済宗妙心寺派のこの寺は、古くからこの地区に根差し「何かあったらお寺に相談するという慣習が今でも残っている」(地域で働く男性)という。

 寺院は、商売に関わることに抵抗もあったというが、「地域のためにこのガソリンスタンドの存続が必要」と決断。住職の私財と地元有志の出資金を元手に、株式会社かなめ(大田原市)を設立した。給油所を新たに開業しようとする場合、行政への届け出や元売りとの契約などが必要で、ハードルが高く時間もかかる。前の店主から設備を買い取り、事業を引き継ぐ形で給油所を存続させた。

 同地区でも高齢化や人口減が進み、決して経営を楽観視できる状況ではない。そこで、外からのニーズを取り込むため土産品の開発にも着手した。雲巌寺は観光で訪れる人は一定数いるものの、禅宗の修行道場であるため土産品などは一切販売してこなかった。地元の酒蔵と協力してオリジナルの日本酒を開発。ガソリンスタンド併設の商店限定で販売し、売り上げへの貢献を狙っている。

 空き家再生や中小企業支援の補助金を活用し、設備の修繕や入れ替えも済ませた。以前の店舗で働いていたアルバイトスタッフにはそのまま残ってもらい、給油所で勤務した経験を持つ地域の高齢者を有資格者として採用。地域が一丸となって運営に取り組み、大きな利益は出ないものの初年度の赤字は避けられた。かなめの社長を務める雲巌寺僧侶の高憲氏は「(ガソリンスタンドが)先細りなのは承知。それでもこの町で求められる限りは、頭を使い何とかカバーしたい」と、地域とともに続ける覚悟を見せる。

 脱炭素という避けられない未来が待ち構える石油流通業。逆風にさらされるガソリンスタンドだが、石油製品にこだわらず社会のニーズに応えるアイデアを示せれば、形態を変えながら存続していけるかもしれない。次回は、地元のガソリンスタンドの継続のために住人が立ち上がり、「ガソリンを売る」以外の価値で生き残りを図っている事例を紹介する。

この記事はシリーズ「ガソリンスタンドサバイバル」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。