合併症で食道にできた静脈瘤が破裂して死に至ることも

 分解できなくなったアンモニアが脳に届くなんて恐ろしい。そして、肝硬変の合併症で死に至ることもある。最近では、「機動武闘伝Gガンダム」「H2」などのアニメソングで知られる歌手の鵜島仁文(うしまよしふみ)さんが、肝硬変の合併症である「食道胃静脈瘤破裂」で亡くなった。

 「腸や胃、脾臓などから流れてくる血液は、『門脈』と呼ばれる血管を経由して肝臓に届きます。腸で吸収された栄養素は、こうして肝臓に運ばれ、代謝されるのです。しかし肝硬変になると、本来肝臓に流れるはずの血液が違うルートを通るようになります。その血液は、食道や胃の表面を通る血管を流れるようになり、その結果、食道や胃の血管が太くもろくなり、やがて静脈瘤ができてしまうのです」(泉氏)

 特に食道に静脈瘤ができると、食道の内側に凹凸ができ、硬い物を食べるなどの刺激で傷つき、大出血を起こすことがある。「肝硬変の場合、出血すると血が止まりにくくなるため、食道胃静脈瘤が破裂すると命に関わる一大事になるのです」(泉氏)

肝硬変になると、治療しても正常な肝臓には戻らない

 肝硬変になってしまうと、治療によって正常な肝臓に戻すことはできない。治療では、肝臓の慢性的な炎症の原因を取り除き、低下した肝臓の機能を補い、腹水や肝性脳症などの合併症の症状を改善する。すると、非代償性肝硬変であっても、治療によって代償性肝硬変へと戻る場合もあるという。

「代償性」と「非代償性」の関係
「代償性」と「非代償性」の関係
重篤な症状が出る「非代償性肝硬変」では、治療によって進行が抑制されたり、肝機能が部分的に回復する「代償性肝硬変」に戻ったりする可能性がある。また、非代償性では肝臓がんに進行するリスクが高いが、代償性からも直接、肝臓がんへ進行する場合もある。(原図=123RF)

 また、「肝硬変が恐ろしいのは、肝臓がんができやすいこと」だと泉氏は話す。

 「肝臓がんの治療で最も根治性が高いのは、がんができた部分を手術で取り除く治療法です。しかし、肝臓の予備能がある程度保たれていなければ、手術はできません。肝硬変の患者さんは、すでに肝臓の機能が低下しているため、手術に耐えられないことも多いのです。また、肝硬変の症状として出血が止まりにくいことも、手術を難しくする原因の1つになっています」(泉さん)

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