師走になると、忘年会シーズンだ。コロナ禍では飲み会が開かれず、忘年会の開催が見送られがちだったが、「今年こそ忘年会を開きたい」と意気込む酒好きもいるだろう。だが、飲み過ぎると心配になるのが、肝臓の病気だ。特に、誰もが恐れるのが「肝硬変」。肝臓の炎症により、組織の線維化が進み、肝臓が硬くなってしまう病気だ。肝硬変は何が怖いのか、どのような症状・合併症があるのか。肝臓のスペシャリストである武蔵野赤十字病院院長の泉並木氏に解説していただこう。
肝硬変になると、全身がだるい、疲れやすい、いつもおなかが張っているように感じる、などの症状が出る。だが、そうした症状が出るころには、すでに肝臓の「線維化」が進んでしまっている可能性が高い。(写真はイメージ=123RF)
肝硬変になると、全身がだるい、疲れやすい、いつもおなかが張っているように感じる、などの症状が出る。だが、そうした症状が出るころには、すでに肝臓の「線維化」が進んでしまっている可能性が高い。(写真はイメージ=123RF)

 「肝硬変」――。

 普段から肝臓を酷使している我々酒好きが、最も恐れる病気の1つである。

 アルコールとの関係が深い肝硬変は、実際、酒好きの著名人も罹患している。直近では、女子プロレスのブル中野さんの闘病が記憶に残っている。漫才師の横山やすしさんなどは、肝硬変を患った末にこの世を去った。

 私事だが、かつてよく通っていたスナックのマスターも、肝硬変によってこの世を去った。まだ50代の若さだった。酔うと客のボトルにまで手をつけるほどで、毎日の二日酔いを酔いでまぎらわせるような飲み方をしていた。壮絶だった彼の最期の様子を常連客から聞き、肝硬変の恐ろしさに背筋が寒くなったのを今でも覚えている。

 コロナ禍の自宅飲みで酒量が増える人もいる今、改めて肝硬変について知っておきたい。武蔵野赤十字病院の院長で、「肝臓のスペシャリスト」として名高い泉並木氏にお話を伺った。

肝臓の組織が線維化し、硬くなるのが「肝硬変」

 先生、そもそも肝硬変とは、肝臓がどのような状態になることなのでしょうか。

 「肝硬変は、肝臓の組織が線維化(*1)することで、肝臓が硬くなってしまう状態を指します。硬さの原因はコラーゲンです。大量のお酒を日常的に飲み続けたり、肝臓の細胞に脂肪が蓄積したり(脂肪肝)、ウイルスに感染したりすることで肝臓に炎症が起こります。炎症が続くと、合成されたコラーゲン線維が増えていき、それが肝臓を硬化させ、肝機能を低下させていくのです」(泉氏)

 肝硬変になると、肝臓がんの発症リスクも高くなる。この恐ろしい肝硬変は、どのように診断するのだろうか。

 「通常は、肝臓の細胞を採取し、検査によって判断します(肝生検)。それよりも簡易な方法としては、超音波(エコー)で肝臓の硬さを調べる『超音波エラストグラフィー』や、MRI(核磁気共鳴画像法)で硬さを調べる『MRエラストグラフィー』などがあります」(泉氏)

*1 線維組織が増え、臓器などの組織が線維成分に置き換わり、硬くなっていくこと。

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