体の動きから「脳の働き」にアプローチする

年齢とともに体のあちこちが重力に負けて、背筋が丸まったり口角が下がったりしてくるものですが、背筋を伸ばす、口角を上げる(笑う)ということで、気分まで「上向き」になるのですね。

篠原さん:脳を「その臓器だけで完結している臓器」、と捉えてしまうと、心と体は切り離されてしまいます。しかし、当たり前のことですが、脳は手先の神経系とも背筋とも、抗重力筋ともつながっています。手を上に、目線を上方向に持っていくと、ポジティブな気分になりやすいという研究もあります。

へこんだときは、うつむかず上を向いたほうがちょっと気分が変わるのですね。

篠原さん:上を向くとちょっと先の未来を想像する心持ちになりますが、下を見ると過去を想像しやすい、自省的になりやすいのです。自分の過ちを反省したいときは下を向いたほうがいいというわけですね。

 感覚的な話で言うと、重たいものを持つと自分はすごく重大な事案を抱えている、と思いやすい、という研究もあります。憂鬱な仕事が待ち構えている朝などは、なるべく荷物は軽く、身軽に出かけるのも一案です。

 今のように、僕の話を聞いてくれているようなときは、話の聞き手は柔らかくてふかふかしたイスに座りながらのほうが話を素直に受け取りやすい。硬くて座り心地の悪いイスだと批判的に捉えがちになる、ということもわかっています。

 まとめて言うと、「身体化された認知」の研究の一つの帰結は、「これまで使われてきた言葉はけっこう真実を表している」ということ。

  • 上を向く」と「気持ちが上向く
  • 温かい」と「心が温まる
  • 重たいものを持つ」と「重大だと思ってしまう
  • 硬いもの」は「頑なな気持ちになる

古くから言われてきた言葉は、体と心のつながりを見事に表しているのですね。

篠原さん:体と心はそもそも共通の神経ネットワークを使っているから、言葉もそのような表現になったのではないでしょうか。言語が違っても、同じような使われ方をしている例はいくつもあります。「up」は物理的方向にも心理的方向にも使われます。「heavy」もです。

確かにそうですね。体側から整えることで心も整えていくことが可能だと思うと、気持ちが沈んだときにも「まずは動いてみよう」と気持ちを切り替えられそうです。

(図版制作:増田真一)

篠原菊紀(しのはら きくのり)さん
公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授。医療介護・健康工学研究部門長
篠原菊紀(しのはら きくのり)さん 専門は脳科学、応用健康科学。遊ぶ、運動する、学習するといった日常の場面における脳活動を調べている。ドーパミン神経系の特徴を利用し遊技機のもたらす快感を量的に計測したり、ギャンブル障害・ゲーム障害の実態調査や予防・ケア、脳トレーニング、AI(人工知能)研究など、ヒトの脳のメカニズムを探求する。

[日経Gooday(グッデイ)2022年12月2日掲載]情報は掲載時点のものです。

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