温かいものを持つと心も温かくなる?
「笑う」以外で、体を動かすことと脳の働き、気持ちの表れ方などについて研究は行われているのですか。
篠原さん:人の認知には身体感覚が関わっている、という「身体化された認知(embodied cognition)」という研究分野が近年注目されています。
認知と体の状態は深くつながりあっているのではないかという仮説に基づき、そのつながりを明らかにしようと、さまざまな研究が行われています。
例えば「Science」という権威ある科学雑誌で2008年に発表された米国のこんな研究があります(*1)。
41人(平均年齢18.5歳)が、手に温かいコーヒーをしばらく持つ群、冷たいアイスコーヒーをしばらく持つ群に分かれました。対象者はこの実験中に、ある人物と接触し、そのあとにその人物に対する印象についてのアンケートに答えます。その結果、温かいコーヒーを持っていた人のほうがその人物に対してより「温かく、好意的で、寛大な印象」を抱くことができたというのです。
また、研究参加者に温湿布または冷湿布を手に持ってもらった結果、温湿布を持っていた群のほうが、冷湿布を持っていた群より、「自分自身への贈り物ではなく友人へのプレゼントを買うほうを選択する率が高くなる」ことがわかりました。
この研究では、当然ながら被験者には「温かさを感じることの影響を調べている」ことは明かされていません。それでも、温かさを経験するという身体へのアプローチそのものが人に対する印象の受け取り方や社会的行動に影響を与えていることがわかったのです。
研究者は、物理的な温かさと心理的な温かさに対する情報処理は共通して脳の「島皮質」という部位が司っていることから、この部位の活性化が心理的な効果をもたらしたのでは、と推察しています。

温かさを感じると、心も温かくなるのですね。心理的距離を近づけたい人とお茶をするとき、お互いに温かい飲み物を飲んだり、温かい食べ物を食べたりするとよいかもしれませんね。
篠原さん:こんな研究もあります。先行研究で、「背中を丸めていると気分まで落ち込む、背筋を伸ばすとその反対の効果が表れる」ことは明らかになってきていましたが、ニュージーランドの研究者が、軽度から中等度のうつと診断された61人を「普段通り座る群」と「背中を伸ばして座るよう指示される群」に分け、その姿勢のまま、採点ありの5分間のスピーチや数を数える問題などの課題を課しました(*2)。
課題を遂行する間、被験者は気分についてのアンケートに答えましたが、「背筋を伸ばして座った」群では、ポジティブな感情が高まり、疲労が軽減され、自分について思い悩む傾向が減りました。
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