晩酌は毎日欠かさないという人が気をつけたい病気が、「慢性膵炎」です。長年にわたって毎日のように多量飲酒を続けていると、膵液が膵臓自体を徐々に溶かしていき、腹部に痛みを生じる慢性膵炎になるリスクが高くなります。しかも、慢性膵炎が進行すると膵がんにかかるリスクも格段に高くなります。慢性膵炎になりやすい人の特徴や、治療などについて、帝京大学医学部附属病院肝胆膵外科教授の佐野圭二さんに解説していただきました。
長年にわたる多量飲酒が原因で「慢性膵炎」になると、膵臓はカチカチ硬くなる。(写真はイメージ=123RF)
長年にわたる多量飲酒が原因で「慢性膵炎」になると、膵臓はカチカチ硬くなる。(写真はイメージ=123RF)

 膵臓が、自ら分泌する膵液でドロドロに溶け、突然激しい痛みに襲われる「急性膵炎」。

 前回「酒好きに悲報 急性膵炎になると「一生断酒」!?」の記事でお伝えした急性膵炎の痛みは想像を絶するもので、痛みのあまり悲鳴を上げてのたうち回ってしまうそうだ。何とも恐ろしい……。

 「たくさんお酒を飲むと、アルコールの影響で膵液に含まれる消化酵素が膵臓内で活性化し、急性膵炎を引き起こす原因になります。また、胆石が膵液の出口を塞いでしまうことでも、急性膵炎になる場合があります」と説明するのは、帝京大学医学部附属病院肝胆膵外科教授の佐野圭二さん。

 最も恐ろしいのは、「急性膵炎を発症したら、その後は断酒しなければならない」ということだ。アルコールが原因で急性膵炎を発症した人のうち、およそ半数は再発するといわれており、そのほとんどが断酒できなかったためではないかと考えられる。そして、急性膵炎を繰り返すと、1割程度は「慢性膵炎」に移行するという。

 慢性膵炎は、「慢性」というだけあって、一度発症したら生涯付き合っていかなければいけないのだろうか? どのような治療が必要になるのだろうか。引き続き、佐野さんに解説していただいた。

毎日飲み続けると「慢性膵炎」のリスクが上がる!

 先生、慢性膵炎は急性膵炎とどう違うのでしょうか?

 「急性膵炎、慢性膵炎ともに、アルコールが大きな原因の1つであることは共通しています。前回もお伝えしましたが、急性膵炎はアルコールを飲み過ぎたときに上腹部を中心に急激な炎症が起こります。一方、慢性膵炎は長期間にわたる多量飲酒が原因で、膵液によって膵臓自体が徐々に溶けていき、次第にカチカチに硬くなり、萎縮していきます。一般に、5~15年という時間をかけて進行していきます」(佐野さん)

 急激に強い痛みが走る急性膵炎も怖いが、時間をかけてゆっくりと膵臓が硬く萎縮していく慢性膵炎は、また違った恐怖がある。そして進行すると、膵がん(膵臓がん)になるリスクも高まるという。

 しかし気になるのは、その「痛み」だ。膵臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、何か病気になっても症状が出にくいことが多いと聞く。「膵液によって、膵臓が徐々に溶けて硬くなっていく」というからには、自覚症状として、やはり痛みがあるように思うのだが。

 「慢性膵炎の場合も、急性膵炎と同様に上腹部に痛みを感じます。慢性膵炎のステージには、代償期、移行期、非代償期という3段階があり、強い痛みを感じるのが代償期で、このとき膵臓の働きはまだ保たれています。移行期になると、膵臓の働きが徐々に衰え、痛みは軽くなり、膵臓に石がたまったり(膵石)、膵液の出が悪くなったりします。末期とも言える非代償期になると、膵臓がほぼ機能しなくなり、人によっては痛みがなくなることもあるのです」(佐野さん)

慢性膵炎の病期と症状
慢性膵炎の病期と症状
日本消化器病学会「慢性膵炎診療ガイドライン2015」を基に作成
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