「存在を褒める」のは抽象的な言葉でいい

褒める、という日常的なコミュニケーションが脳科学において研究されていることがよくわかり、興味深いです。では、2つめの褒め方「相手の存在そのものを褒める」について教えてください。

篠原さん:こちらも重要です。特に、人事管理や労務管理の立場にある人は知っておきたい視点です。

 仕事でなかなかパフォーマンスを発揮できずに疲労をためた場合など、うつ状態に近い状態になってしまうこともあるでしょう。話は飛びますが、学校教育の現場などでは、どうしても褒めてくれない家庭で育っている子どもも存在します。無関心とか、常に叱られるといった状況にあるお子さんがいたら、教育現場ではそれこそなんでもいいから褒めて「この場では自分の存在が認められている」と感じさせることが必要、とされています。

 それって虐待のような特別なケースでは?と思うかもしれませんが、仕事においても、不安に襲われることは誰しもあるでしょう。「自分の仕事は役に立っているのかな」「上司は評価してくれているのかな」というふうに思い詰めると、意欲は低下するし、不安にもなります。

なるほど、何か手柄を立てたときには、前述のように「具体的行動を褒める」のが有効ですが、相手が意欲や自信をなくしているときは、相手を元気づけたい褒め方、つまり「存在そのものを褒める」ことが大事になるのですね。では、「存在そのものを褒める」にはどうすればいいのでしょうか。

篠原さん:例えば、自信をなくした子どもたちを相手にする場合は、髪の毛の長さ、ほっぺたのぽにょぽにょした感じ、靴の色でも、なんでもいいから、上から下までなんでも褒める、そんなイメージです。

 私などは学生が相談にやって来たら、一発目の言葉として「よく来たね」「すごいね」と言って褒めます。そうすることが、自己肯定感やまた来るモチベーションにつながりますから。

言われて見るとその通りだと思いますが、自分が疲れていたりするとなかなかできないことでもあります。相手の存在を褒めるときのポイントはありますか。

篠原さん:この場合の褒め方は、ものすごく抽象的でいいんですよ。「すごいね」とか「やるじゃん」とか、「そのスマホケースいいね」とか、何言ってるかわかんないよ、というようなことでもいい。相手に対するプラスの言葉は勝手に耳に残っていきます。枕詞のように褒めるのです。

リモートワークが定着して、直接会って会話することが減ってきているので、オンラインのときなどにも今回教わった「褒め」を心がけてみたいと思います。

◇     ◇     ◇

 次回は、「褒める」以上に悩みの種になりやすい「叱る」について、相手に必要以上にダメージを与えず、こちらの意向を伝えるための方法について聞く。

(図版制作:増田真一)

篠原菊紀(しのはら きくのり)さん
公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授。医療介護・健康工学部門長
篠原菊紀(しのはら きくのり)さん 専門は脳科学、応用健康科学。遊ぶ、運動する、学習するといった日常の場面における脳活動を調べている。ドーパミン神経系の特徴を利用し遊技機のもたらす快感を量的に計測したり、ギャンブル障害・ゲーム障害の実態調査や予防・ケア、脳トレーニング、AI(人工知能)研究など、ヒトの脳のメカニズムを探求する。

[日経Gooday(グッデイ)2022年9月29日掲載]情報は掲載時点のものです。

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