褒めると脳に直接働きかけてスキルが高まる、という研究も

行動を具体的に褒めて線条体を活性化する褒め方は、若い世代だけではなく全年代に有効なのですね。

篠原さん:褒められることは意欲を高めてその人のモチベーションアップにつながるため、結果的にパフォーマンスを高めることにつながります。それだけでなく、褒められるという刺激が脳に直接働きかけて、スキル定着を促すのではないかという興味深い研究が以前から報告されています。

 2012年に医学雑誌「PLoS One」で報告された研究では、48人の被験者に対して、30秒間でキーボードをある順番でたたく、という課題をやってもらいました。これは運動技能の記憶実験でよく用いられる課題です。

 研究のポイントは、課題実施直後に「褒める対象」を変えたこと。

 参加者はディスプレーを通して

  1. 自分のトレーニングの結果を自分が褒められるグループ
  2. 他の参加者が褒められるのを見るグループ
  3. 自分の成績だけをグラフで見る(褒められない)グループ

の3つに分けられました(図)。

 その結果、①の「自分が褒められた」参加者は、翌日に、課題で学習した結果を予告なく思い出させるテストを行ったときに、②や③のグループよりも有意に好成績を出しました(グラフ)。一方、新たな課題や、ランダムに並べられた課題を行うときの成績は3グループ間で差がありませんでした。

 つまり、トレーニングを行った特定のスキルに関する脳のネットワークだけが、その課題の直後に「褒められる」ことによって定着した。この結果は、褒められることによる運動技能記憶の向上が、褒められてやる気が起きたとか、練習量が増えた、というような結果で起きたのではなく、脳に直接的な効果を及ぼすことを示しています。

褒められると運動技能の成績が上がった
褒められると運動技能の成績が上がった
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48人を対象に、キーボードをある順番で連続的にたたく課題を行い、その後、被験者を「自分が褒められるグループ」「他人が褒められるのを見るグループ」「自分の成績だけをグラフで見るグループ」に分けた。翌日に、前日に覚えたことを思い出して再度指を動かしてもらうテストを行ったところ、「自分が褒められるグループ」が最も好成績だった。(Sho K Sugawara, et al. PLoS One. 2012; 7(11): e48174.より作図)
48人を対象に、キーボードをある順番で連続的にたたく課題を行い、その後、被験者を「自分が褒められるグループ」「他人が褒められるのを見るグループ」「自分の成績だけをグラフで見るグループ」に分けた。翌日に、前日に覚えたことを思い出して再度指を動かしてもらうテストを行ったところ、「自分が褒められるグループ」が最も好成績だった。(Sho K Sugawara, et al. PLoS One. 2012; 7(11): e48174.より作図)

行動をしたときに具体的にその場で褒める、ということは、実際に脳になんらかの働きかけをして記憶学習効果を高めるのですね。

篠原さん:さらに、2020年にはこの研究をさらに発展させた報告がされています。96人を対象に、ディスプレーを介して褒められた場合やロボットに褒められた場合のスキルの向上を調べたところ、2人(2方向)から褒められた人は、1人(1方向)から褒められた人や褒められなかった人に比べて、運動技能の向上が有意に高くなったというものです。「1人よりも2人から褒められたほうが、伸びる」わけです(*1)。

「褒め」の効果を高めたいときには、別の人とも情報交換をして、多方向から相手を褒めるのも良さそうですね。

*1 Masahiro Shiomi, et al. PLoS One. 2020 Nov 4;15(11):e0240622.

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