日常的に接している相手ほど、当たり前になっておろそかになりがちなのが「褒める」という行為かもしれない。組織の人間関係などでは、部下をどう褒めればいいか、褒めすぎも良くないのか……などと迷うことも多い。「褒める目的に立ち返ってみましょう。相手に何を伝えたいか、どうなってほしいかによって褒め方は異なり、モチベーションアップや安心感にもつなげられます」と公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀さんは話す。褒め方ひとつでコミュニケーションをよりスムーズにできる可能性がある。さっそくその方法を聞いてみよう。
(写真はイメージ=PIXTA)
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相手の行動をかみ砕き「具体的に褒める」ことでやる気アップ

今回は「褒め方」について教えてください。というのも、中間管理職の立場にある人と話をすると、「部下をどう褒めたらいいのかがわからない」と悩んでいる人が多いようです。部下のモチベーションを高めたい一方で、褒めすぎるとそれが当たり前になってかえってやる気が伸びないのでは、など、悩みはつきないようです。

篠原さん:まず、褒める目的はどこにあるのかを考えてみましょう。例えば「部下を褒める」というときには、褒めることによって相手の行動をねぎらいたいというほかにも、モチベーションを高めてもらって次の成果にも結びつけてほしい、という目的がありそうですよね。

まさにおっしゃる通りです。褒めることが次の行動にプラスにつながるなら、すごくいいですね。

篠原さん:褒めるときには、目的別に2つの方法があります。今お話ししたような、相手のやる気を高めたいときの場合には「具体的な行動を褒める」、一方、相手が意欲や自信をなくしてしまっているようなときには「相手の存在そのものを褒める」のが大切です。

目的によって、何を褒めるか、どう褒めるかが違ってくるのですか。

篠原さん:そうです。部下のモチベーションを高めたいときには、脳で言うなら「行動と快感を結びつける」ことが有効です。

 「この行動をしたら褒められた!」という経験によって、脳では、やる気の中核と言われる「線条体」が活性化します(図)。

 線条体とは、快感に関わるドーパミン神経とつながっている部位で、行動と快感が結びつくことによって意欲が高まる、つまり具体的な経験の蓄積をエサにして活性化しやすくなる部位です。

 ですから、「がんばったね」というレベルではなく、さらに具体的に「伸ばしてほしい行動を褒める」のがコツです。

 例えば、「取引先は判断に時間がかかる人だから、今回、早めに連絡しておいてくれたことが功を奏したよ、ありがとう」とか「作ってくれた資料の見出しのあのフレーズは斬新だったね」というふうに、具体的に伝えます。そのためには、相手のとった行動を細かく分解して、相手に応じて褒めポイントを見つける観察力も必要になります。

原図=123RF
原図=123RF

なるほど、「褒めれば伝わる」と思っていると、「がんばったね」「今回は大変な仕事だったよね」というふうに、ふわっとした伝え方をしがちになります。より具体的に相手の行動をかみ砕いて伝えるほうが、相手のモチベーションアップにつながるのですね。

篠原さん:ちなみに行動と快感を結びつける「線条体」は、40代、50代になったときに最も充実することもわかってきています。脳の司令塔である「前頭前野」や記憶の引き出しの「海馬」は年齢とともに衰えてきやすいのですが、「線条体」は脳の使いようによっては機能を高められます。

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