ほうれん草小松菜などの葉物野菜に含まれている硝酸塩の摂取量が多い人ほど、筋力や筋肉の機能が高いことが、オーストラリアで行われた研究で明らかになりました。

硝酸塩は、ほうれん草や小松菜、チンゲン菜、春菊などの葉物野菜に多く含まれている。(写真=123RF)
硝酸塩は、ほうれん草や小松菜、チンゲン菜、春菊などの葉物野菜に多く含まれている。(写真=123RF)

毎日の食事から摂取できる量の硝酸塩が健康に及ぼす影響は?

 野菜にはビタミン、ミネラルのほか多様なフィトケミカル(*1)が含まれています。その1つが、ほうれん草や小松菜、チンゲン菜、春菊といった、緑の葉物野菜に多く含まれている硝酸塩(*2)です。

 これまでの研究では、食事を介した硝酸塩の摂取には心血管疾患のリスクを下げる可能性があることや、代謝調節に好ましい影響を与える可能性があること、また、高用量の硝酸塩を摂取すると筋力が高まることなどが示されていました。若い世代では、硝酸塩の摂取が運動中の骨格筋への血流量を増やすことが示されており、国際オリンピック委員会(IOC)は2018年に、硝酸塩を「ergogenic aid」(運動能力に影響する可能性のある栄養素や成分)に分類しました。

 しかし、これまでに硝酸塩の健康利益を検証した無作為化試験のほとんどは、短時間に大量に摂取できるよう、硝酸塩含有量の多いビーツ(赤紫色をしたヒユ科の根菜)の濃縮ジュースや硝酸ナトリウムを用いており、日常的な摂取量の4倍から7倍の硝酸塩を一度に摂取させていました。そのため、毎日の食事から摂取できる量の硝酸塩が健康に及ぼす影響については、明らかになっていませんでした。

 また、今回の論文の著者らは先に、食事を介した硝酸塩の摂取量が多い高齢者ほど、筋力と筋肉の機能が高いことを示唆する結果を得ていました。ただし、日常的な運動が筋機能の向上に貢献することも知られているため、食事を介した硝酸塩の摂取と、筋力、筋機能との関係の間に、本人の運動習慣が関わっている可能性も考えられました。

 そこで著者らは今回、食事を介した日常的な硝酸塩の摂取と筋力、筋機能の関係を明らかにし、そこに運動量が影響するかどうかを検討しようと考えました。

硝酸塩の摂取量で3群に分け、下肢の筋力や移動歩行能力を比較

 対象としたのは、オーストラリアの人々の糖尿病発症の状況とこれに関連する要因(肥満や生活習慣)について検討している観察研究「Australian Diabetes, Obesity and Lifestyle Study (AusDiab)」に参加した25歳から85歳までの人々です。

 参加者の日常的な食事の内容を集めるため、登録時点(2000~2001年)と、2004~2005年、2011~2012年の時点で食物摂取頻度調査を実施。調査を2回以上受けていた人たちについては、総エネルギー摂取量や、個々の成分の摂取量の平均値を求めました。

 筋肉の機能は、2011~2012年に行った、脚の筋力を調べる膝関節伸展筋力の測定結果と、バランス能力と移動歩行能力を調べる8フィートTUGテスト(いすに座った状態から立ち上がって歩き出し、8フィート先の目印を回って再び着席するまでに要する時間を測定するテスト)によって評価しました。

 運動習慣は質問票を用いて評価し、結果に基づいて人々を以下の3群に層別化しました:「全く運動しない」「運動はするが量が不十分(150分/週未満)」「十分な運動を行っている(150分/週以上)」

*1 フィトケミカル:植物性食品に含まれる栄養素以外の成分(香りや色、苦みなど)のこと。ポリフェノール類や硫黄化合物であるイソチオシアネート類、色素成分のカロテノイド類などが含まれる。

*2 硝酸塩については、健康に害を及ぼす可能性も示されていたが、それを示す明瞭なデータはなく、農林水産省のページでは「通常摂取する程度では、それ自体は特に人体に有害なものではありません」とされている。

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