トイレに起きる回数よりも、「どれくらい困っているか」がポイント

 前述したように、「夜間頻尿」は夜間の就寝中に1回以上、排尿のために起きなければいけない症状のことを言う。しかし実際には、夜中に1回トイレに起きるだけで治療を必要とするケースは少ないと、吉田さんは話す。

 「最近は夜間頻尿という言葉が一般にも知られるようになり、『自分も夜中に1回はトイレに起きるから、何か問題があるのではないか』と心配して受診される人が増えました。そうした方には、それによって困っていることが特になければ、様子を見ましょうと伝えます。治療を考える目安は、トイレに起きる『回数』よりも、『どれくらい困っているか』に基づきます。『1回でもつらい』という人もいれば、『3回起きても特に問題はない』という人もいます。特にご本人が問題を感じていなければ、トイレに起きる回数が多くても、治療の対象にはなりません」(吉田さん)

 就寝中に1回程度なら、まあ仕方ないと考える人も多いだろう。だがこれが2回、3回と回数が増えていき、寝不足になるなど困ることが出てくれば、何らかの対応が必要になってくる。シニア世代は特に、夜間にトイレに行くときに転倒して骨折し、寝たきりの状態につながるリスクもあると、吉田さんは指摘する。

 「東北大学の研究チームの報告(*2)によれば、70歳以上の高齢者では、夜中のトイレが2回以上の人の死亡率は、1回以下の人に比べて約2倍高く、回数が増えるにつれて死亡率が高まることが分かっています」(吉田さん)

 シニア世代の夜間頻尿は転倒・骨折につながるリスクがある一方で、適切な対策を取れば改善する可能性が高い。また、夜間頻尿の原因によっては、セルフケアで症状が軽減する場合も多い。まずは夜間頻尿が起きている原因を考え、必要な対策を知っていこう。

*2 Nakagawa H, et al. J Urol. 2010 Oct;184(4):1413-8.

夜間頻尿の主な原因は「夜間多尿」「蓄尿障害」「睡眠障害」の3つ

 夜間頻尿の原因は、主に3つに大別することができる。「夜間の尿の量が増える『夜間多尿』、膀胱にうまく尿がためられなくなる『蓄尿障害』、夜間によく眠れない『睡眠障害』。これらの3つの原因が重なり合って夜間頻尿を引き起こしていることが多いですね」(吉田さん)

図2 夜間頻尿の3大原因
図2 夜間頻尿の3大原因
夜間頻尿の主な原因は、夜間多尿、蓄尿障害、睡眠障害の3つ。

 これら3つの主要原因について、詳しく説明していこう。

夜間多尿はホルモンの減少や水分の過剰摂取、運動不足などが影響

 「夜間多尿」という言葉は耳慣れない人もいるだろう。「夜間頻尿」は夜間のトイレの頻度(回数)が基準となるが、夜間頻尿の原因の1つである「夜間多尿」は、「夜間に出る尿量が多い状態」を言う。具体的には、1日の総尿量の33%以上が就床中に出ている状態を夜間多尿と呼ぶ。つまり、本来なら昼間に出る分の尿が、夜に出てしまっているのだ。

 夜間多尿は、シニア世代の夜間頻尿の原因の大部分を占めるという。なぜ、シニア世代で夜間の尿量が増えるのか。「1つには、抗利尿ホルモンと呼ばれるホルモンの減少が挙げられます。抗利尿ホルモンは通常、夜間に多く分泌されて、尿量を減らす役割を果たしています。ところがこのホルモンは、加齢とともに分泌量が少なくなるので、それに伴って、夜間に作られる尿の量が増えていくのです」(吉田さん)

 また、加齢や運動不足などによって下半身の筋肉が衰えたり、心臓や腎臓の機能が低下してきたりすることで血液を全身に送るポンプ機能が弱まり、血液の循環が悪くなることも、夜間の尿の量を増やす原因になる。

 「血液の循環が悪くなると、下半身の血管から水分が漏れ出して、細胞の間質にたまって足がむくみます。水分がたまった状態のまま、夜になって睡眠のために横になると、重力の影響を受けなくなった水分が血管に戻ります。すると、増えた水分を減らすために尿が作られ、膀胱にたくさんたまるようになるので、尿意を感じトイレに起きやすくなります」(吉田さん)

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