
50歳を過ぎると約6割の人が「夜中に1回以上」トイレに起きている
「夜、寝ているときにトイレに行きたくなって目覚めてしまう」「1度トイレに起きると、その後なかなか寝つけない」「就寝中に何度もトイレに起きてしまうので、熟睡できない」など、「夜中のトイレ」に関する悩みは、多くの読者にとって身近な問題ではないだろうか。

夜、寝ている間に1回以上、排尿のために起きる症状を「夜間頻尿」と呼ぶ。わが国で行われた代表的な研究(*1)によると、40代では男女ともに約4割の人に夜間頻尿があり、50代では約6割、60代では約8割、70代以上になると約9割と、年齢を重ねるごとにその割合は増えてくる。
夜中のトイレが2回以上になる夜間頻尿に限っても、60代の男性で約4割/女性で約3割、70代の男性で約6割/女性で約5割、80歳以上の男性では約8割/女性では約7割という多さだ(図1)。
「夜間頻尿は年のせい」とあきらめる前に知っておきたい大切なこと
50代の約6割、60代では約8割。これだけ多くの人に夜間頻尿が認められると、「夜中にトイレに起きるのは、ある程度の年齢になれば仕方がない」――。そんなふうに半ばあきらめてしまっている人もいるかもしれない。
夜間頻尿は確かに、加齢に伴う生理現象の1つといえる側面もある。しかし、桜十字病院泌尿器科医長(前・国立長寿医療研究センター副院長/同センター泌尿器外科部長)の吉田正貴さんは「夜間頻尿には加齢以外にもさまざまな原因が複雑に絡み合っていることが多く、原因が1つということはまずありません」と話す。「夜間頻尿は年のせい」とあきらめる前に、原因を探り、適切な対策を取ることで、改善する可能性は十分にあるのだ。
近年、夜間頻尿に関する知見が蓄積され、夜間頻尿の症状に効果的な新しい薬が登場したことで、2020年に「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」(日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会)が発行された。2009年の初版発行から11年ぶりの改訂だ。吉田さんは、この最新の診療ガイドラインの作成委員長を務めた。
ガイドラインの改訂に当たっては、泌尿器科の専門医だけでなく、一般の医師向けに診療の手順などを示した診療アルゴリズムが新たに作成されるなど、注目すべき点がいくつかある。その1つが、夜間頻尿の原因によっては、日常生活の中で実践できる具体的な行動療法(セルフケア)を重視している点だ。夜間頻尿に困っている人にとっては朗報といえるだろう(セルフケアについては第2回、第3回で詳しく紹介予定)。
こうした最新知見を上手に取り入れるためにも、まず知っておきたいのは、自分の夜間頻尿の原因だ。夜間頻尿の背景には、加齢だけでなく、前立腺肥大などの泌尿器系の病気や、不眠症など泌尿器以外の病気が影響している場合もある。自分の夜間頻尿の原因をどのように見分け、対策を取ればいいのか。吉田さんに詳しく解説していただくとともに、記事後半に掲載したセルフチェック表で、自分に当てはまる症状がないかを見ていこう。
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