著者らは続いて、老化のペースが速い人について、45歳時点で「認知症と関連づけられる老化のサインが脳に見られるか」「認知機能の低下が進んでいるか」「感覚・運動機能に低下が見られるか」「外見が老けて見えるか」「老化についてどう考えているか」「周囲の人からどう見られているか」について検討しました。
老化のペースが速い人では、45歳時点で既に、頭部MRI画像に、大脳皮質が薄い、海馬の体積が小さいなどの変化(認知機能の低下と神経変性疾患のリスクが高い高齢者に認められるような変化)が生じていました。
老化のペースが速い人は、認知機能検査のスコアも悪く、45歳時点でもさまざまな種類の認知機能に低下が見られました。また、老化速度が遅い人に比べ、早い人では、45歳時点のIQが有意に低くなっていました。日常生活においても、記憶力が低下しており、注意に欠けることが多く、たとえば財布や鍵、眼鏡などを置き忘れる、用事をし忘れる、といったことを経験する頻度が高いことも分かりました。
フレイル(転倒リスク、介助が必要になるリスク、死亡のリスクが高い虚弱状態)の高齢者を同定するために用いられる感覚・運動機能(歩行速度、握力、視覚コントラスト感度、聴力)の評価の結果も、老化のペースが早かった人では、軒並み低くなっていました。
生物学的老化のペースが速い人は、外見も老けて見える
45歳時点で老化のペースが速かった集団では、「年を取り、ものごとが悪化している」「若いころに比べて幸せではない」「あまり健康ではない」「実年齢より老けている」「顔が同年齢の人に比べて老けている」「75歳を過ぎて生きているとは思えない」と考える人が多く、友人や周囲の人から健康状態が悪いように見られる、外見が実年齢より老けていると見られる人が多くなっていました。これまでに行われた高齢者を対象とする複数の研究でも、「自分が老人である」と感じている人はその後、比較的若いうちに加齢関連の疾患と診断されて死亡することが多いと報告されています。
得られた結果は、人間の生物学的年齢には45歳の時点で統計学的に有意な差が生じており、老化のペースが速い人には、加齢に関係する機能の低下が生じていることを示しました。著者らは、「中年期に対策を取れば加齢に関連した慢性疾患のリスクを低減できるかどうかを、無作為化試験を行って調べる必要がある」との考えを示しています。もしかしたらもっと前から、前向きな考えを持ち、健康的な生活を心がけ、健康診断を受けて、慢性疾患の危険因子を修正していく必要があるのかもしれません。
著者らはまた、「老化のペースが速い人には、実年齢ではなく、生物学的な年齢に基づく支援を行う社会の構築が必要ではないか」との提言も行っています。
論文は、2021年3月15日付のNature Aging誌電子版に掲載されています(*1)。
医学ジャーナリスト

[日経Gooday(グッデイ)2021年8月3日掲載]情報は掲載時点のものです。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「日経Gooday」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

日経Gooday(グッデイ)は、健康・医療の最新情報をお届けする総合サイトです。有料会員になると、専門家に徹底取材した運動・筋トレ、食事、病気予防などの特集・連載記事に加えて、「専門家への24時間電話相談」「名医紹介サービス」「健診結果のAI予測」などをご利用いただけます。詳しい情報はこちらから
Powered by リゾーム?