野菜の摂取量が多い人は認知症のリスクが低いこと、また、野菜に含まれる栄養素の中にも、摂取量が多いほど認知症リスクが低くなるものが複数存在することが、日本人を対象とした研究(*1)で示されました。

野菜の摂取量が多い人は認知症のリスクが低いことが、日本人のデータで示されました。(写真=PIXTA)
野菜の摂取量が多い人は認知症のリスクが低いことが、日本人のデータで示されました。(写真=PIXTA)

野菜・果物と認知症の関係、東洋人での研究はわずかだった

 世界的な人口の高齢化とともに、認知症患者も増えています。しかし、年齢上昇だけでは、近年の患者の増加を説明しきれないことが明らかになっており、加齢以外の要因の探索が続けられています。そうしたなかで、認知症の危険因子として注目されているのが食習慣です。

 これまでに行われた研究でも、野菜・果物の摂取量と認知症リスクの間には逆相関関係があることが示されていました。しかし、それらの多くは欧米で行われた研究で、東洋人を対象とする分析はわずかしか行われていませんでした。そこで九州大学などの研究者たちは、日本人の集団を24年間追跡し、野菜・果物と、それらに主に含まれている栄養素の摂取量と認知症の発症との関係を検討しました。

 対象となったのは、福岡県糟屋郡久山町の住民を対象に1961年から行われている疫学研究である「久山町研究」の参加者です。久山町研究は、脳卒中・虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)、悪性腫瘍・認知症といった生活習慣病の疫学調査を目的として、町内の40歳以上の住民を追跡し、身体的および精神的な健康状態を1~2年ごとに評価してきました。高齢者に対する認知機能検査を行うようになったのは1985年からです。

 今回の分析対象は、1988年に受けた認知機能検査で認知症ではないと判定されていた60歳以上の住民です。その時点で質問票を用いた調査を行い、病歴、糖尿病治療薬と高血圧治療薬の使用の有無、学歴、飲酒習慣、喫煙習慣、運動習慣などについて尋ねました。また、同年に、70項目からなる食物摂取頻度調査を行って、野菜、果物、栄養素の摂取に関する情報を得ました。

 食物摂取頻度調査の結果に基づいて、男女別に、1日の摂取エネルギー1000kcalに占める野菜または果物の量が最も少なかった人から最も多かった人までを一列に並べて4等分し、最も少ない集団を最低四分位群、最も多い集団を最高四分位群としました。それぞれの群の摂取量は以下の通りでした。

【野菜】
最低四分位群:男性111g以下、女性135g以下、第2四分位群:男性112~151g、女性136~189g、第3四分位群:男性152~205g、女性190~250g、最高四分位群:男性206g以上、女性251g以上
【果物】
最低四分位群:男性13g以下、女性22g以下、第2四分位群:男性14~30g、女性23~46g、第3四分位群:男性31~56g、女性47~71g、最高四分位群:男性57g以上、女性72g以上

 分析は、同じ四分位群に分類された男性と女性を合わせて行いました。

*1 Kimura Y, et al. BMC Geriatr. 2022 Mar 28;22(1):257.

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