飲酒量と心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)の発症リスクの関係には「Jカーブ」が存在する、つまり、お酒を少し飲む人は全く飲まない人よりも心血管疾患のリスクが低いということが知られています。しかし、米国の研究者たちが新たに行った研究(*1)の結果、「非飲酒者に比べ心血管疾患のリスクが低くなる飲酒量」は存在せず、飲酒量が増えるにつれて心血管疾患のリスクは指数関数的に上昇することが示唆されました。

飲酒量のJカーブには「好ましい生活習慣」が影響している?
飲酒と心血管疾患のリスクの関係について検討した観察研究はこれまで、非飲酒者や大量飲酒者に比べ、少量飲酒者のほうがリスクは低いことを一貫して示しており、横軸を飲酒量、縦軸をリスクの大きさとしてグラフ化すると、J字型またはU字型のカーブになると報告していました。しかしそうした関係は、節度ある飲酒者に多く見られる、好ましい生活習慣や、行動特性、社会経済的地位などの影響を受けている可能性があるとも考えられていました。しかし、この問題について検討するために無作為化試験を行う(参加者をさまざまな飲酒量に割り付けて、その後の心血管疾患の発症率を比較する)のは倫理的に不可能です。
近年、飲酒と心血管疾患リスクの因果関係を分析するような場合に、メンデルランダム化解析という手法がとられるようになりました。この方法は、観察研究では完全に解決できない交絡因子(AとBの関係について検討する研究の場合、これらの関係に影響を及ぼす可能性のあるさまざまな要因を交絡因子と見なします)と、逆の因果関係(AによってBが起こるように見えるが、実際にはBが先に起きたためにAが現れる場合)の懸念を取り除くことができます。
さらに詳しく:メンデルランダム化解析とは
メンデルランダム化解析は、無作為化試験で得られる結果を、観察研究で得られるデータから導き出すために考案された研究法です。
例えば、「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールを高める治療が心筋梗塞リスクを低減するかどうかを検討する場合、無作為化試験を行うなら、背景がよく似た人たちを大勢登録して、「HDLコレステロールを高める治療薬を飲む群」または「偽薬(プラセボ)を飲む群」のいずれかに無作為に割り付けて長期間追跡し、心筋梗塞の発症率を比較します。
一方、メンデルランダム化解析は、HDLコレステロールが高値になる遺伝子を持つ人とそうでない人を追跡して、心筋梗塞の発症率を比較します。全ての遺伝子は授精時点でランダムに振り分けられる、という前提に立つこの方法は、HDLコレステロール高値に関係する遺伝子以外はメンデルの法則どおりにランダム化されていると見なし、そうであれば、HDLコレステロール値に関係する遺伝子を除いて、1人1人の参加者の特性(生活習慣など)の分布は等しいと想定して分析します。因果関係の検討において有用と考えられている方法です。
これまでに行われたメンデルランダム化解析でも、飲酒と心血管疾患リスクの間には因果関係が存在することが示唆されていましたが、用量反応関係については十分に分析されていませんでした。そこで著者らは、さまざまな量の習慣的なアルコール摂取と心血管疾患の関係についてさらに研究するため、非線形メンデルランダム化解析というより新しい方法も用いた分析を行うことにしました。
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