胆石の予防にいいおつまみがあると最高なのだが……。

 「米国の女性看護師およそ8万人を20年間追跡した疫学研究『Nurses' Health Study』では、ピーナッツやアーモンドなどをよく食べる女性には、ひどい胆石症に罹患する人が少ないという報告(*2)があります。ナッツに含まれる良質な脂が、胆のうの収縮を促すためと考えられます。ただ、胆石に限らず、『これを食べれば病気を予防できる』という食材はありません。バランスのいい食事を心がけましょう」(森氏)

 酒飲みは栄養バランスよりも、ついつい「酒に合うもの」を優先して選んでしまう傾向にある。肝に銘じておかなければ。

*2  Am J Clin Nutr. 2004;80:76–81.

胆のうを摘出すると胃酸逆流も治まる?

 それでは、胆石ができて発作が起きてしまった場合は、どのような治療を受けることになるのだろう?

 「軽症であれば、ウルソデオキシコール酸をはじめとする、コレステロール胆石を溶解する薬を飲む薬物療法があります。しかし、度重なる胆石発作を起こしたり、胆のう内に胆石がびっしり詰まっていたり、その影響で胆のう壁が厚くなっていたりする場合は、胆のう摘出手術をお勧めします。胆のうを手術で取っても日常生活に大きな問題はなく、ときどきおなかがゆるくなるくらいです。手術の入院は2~3日と短期で済みます」(森氏)

 胆のうを摘出しても、日常生活であまり問題はないとは驚きだ。胆汁は、肝臓から直接、総胆管を通って十二指腸に届くようになる。

 森氏によると、「胆のうを手術で取ると、その後は胆管が少し太くなる」という。まさに人体の不思議である。

 そういえば、胆のう摘出手術をした知人の男性は「胆のうを取ったら、飲んでも胃もたれをしなくなった」と話していた。

 「胆のう内で胆汁の圧力が上がると、胃酸が逆流する症状があり、それが胃もたれや胸焼けにつながります。症状の根源となる胆のうを摘出すると、胃酸の逆流も緩和するというわけです。また、逆流性食道炎と診断された方で、薬を飲んでも症状が改善しない場合に、実は胆石が原因だったということも少なくありません」(森氏)

 逆流性食道炎もまた、酒飲みには定番の疾患。「薬が効かない」と思ったら、胆石を疑ったほうがいいようだ。

 では、「胆のうがん」と胆石の関係はどうなのだろう?

 「残念ながら、胆のうがんと胆石との関係はまだ分かっていません。胆石を放置すると胆のうがんになるというわけではありません。しかし、胆のうがんの患者に胆石が多いという事実はあります。また、世界中で胆のうを摘出した人を調べたデータの中に、『インシデンタル(偶然)胆のうがん』というものがあります。これは、胆石と診断され、手術で胆のうを摘出し、術後に病理検査で調べたら、胆のうがんだったという方が1~2%いたというものです。こうしたことを考えると、胆のうがんと胆石に全く関係がないとは言えないかもしれません」(森氏)

 すでに胆石と診断され、胆のうがんが気になる人は、「2年に1回程度、腫瘍マーカーと超音波の検査をお勧めします」と森氏。酒好きで、すでに胆石と診断されている方、また40代を超えた方は、念には念を入れ、胆のうの検査を一考したほうがよさそうだ。

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葉石かおり著 肝臓専門医・浅部伸一監修

森俊幸(もり としゆき)氏
杏林大学肝胆膵外科客員教授、佼成病院外科部長
森俊幸(もり としゆき)氏 1980年、東北大学医学部卒業。虎の門病院外科レジデント、東京大学第一外科(現 腫瘍外科・血管外科)、埼玉医科大学川越医療センター救急センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校外科などを経て、1995年、杏林大学外科教授。2021年より現職。

[日経Gooday(グッデイ)2022年7月7日掲載]情報は掲載時点のものです。

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