親が何を望むかを事前によく聞いておくことが重要だと。

阿久津さん そうですね。誰に看てもらいたいか、どういう医療処置をしてほしいかといったことから、どう死にたいかまで、元気なうちに伝えてもらい、本人の要望を中心にした介護態勢に入るのが理想です。もちろん、そうした意思を全部伝えてもらっていても「全部希望通りにはできなかった」と後悔する介護者もいる。でも、ベースが何もないと、すべての責任が、介護者の肩に重くのしかかってしまいます。

 厚生労働省も近年、アドバンス・ケア・プランニング(ACP、通称・人生会議)という取り組みの推進を始めました。人生の最終段階における医療・ケアについて、本人が家族や医療・ケアチームなどと話し合おうという内容です。人がどう人生を終えたいかは、自分自身が決める。家族も医師もジャッジしない。それが理想だと思います。

 両親の介護と看取りを経験して、私自身がどう死ぬかについても、家族に伝えておかなければと痛感しました。だから、娘には常に「明日死ぬかもしれないから」と言って、葬儀はこうしたい、遺影はこうしたいなどと話しています。娘は最初、聞きたくないと言っていましたが、今は「最後のお葬式で流す写真集作ろう」なんてアイデアまで出してくれます(笑)。自分の意思を伝えておかなければ、結局、残された側がかわいそうなんです。逆にどうしたいかを聞いておけば、どうしてほしかったんだろう、これでよかったんだろうかと思い悩むことがない。死は、誰にでも当たり前に訪れることですから。

介護が必要なほど弱った親には、人生を終える話は持ち出しにくそうです。

阿久津さん そうなんです。元気なときじゃないと、なかなかできない話ですよね。そもそも、子供から親に終末期の話をすると、「今話すことじゃない」と突っぱねられることが多い。だから、お勧めは、子供がまずエンディングノートを書いてみること。判断しなければいけないことが多く、意外にさっと書けないものです。でも、書けないなりに、「こんなの書き始めてみたけど、うまく書けなかった」と親に見せると、じゃあ、自分もやってみようかという気持ちになる。ぜひ、書いてみてください。

阿久津さんは、介護に関するさまざまな事柄を記録する「介護者手帳」を付けることも勧められています。

UPTREEでは、認知症家族を介護する人のための「介護者手帳」を発行している(画像提供=UPTREE)
UPTREEでは、認知症家族を介護する人のための「介護者手帳」を発行している(画像提供=UPTREE)

阿久津さん 親の状態を記録したり、家族で話し合い誰が何を担当するかを明記したり。記録することで、介護にかかわる人全員と情報を共有でき、介護者は主観的にならず客観的に介護を見られます。書くことで手が足りない部分が見えてきたら、専門職の人に助けてもらうなど、必要な態勢を整える手助けとなります。そもそも主介護者はたとえ兄弟であっても、なかなか言葉では「これをやってほしい」と言えないもの。でも、手帳に書いておけば、それを見て「これは自分がやろう」と言ってくれたりする。また、各自がどんなことを負担するか明記しておけば、「私だけに負担がくる」「いや、僕はこんなにやった」といった感情的なトラブルも避けられます。

 介護にかかるお金も記録しておくことが大切です。ちょっとした金額でも負担をしたら必ず書いておくこと。少額でも加算されるとそれなりの金額になりトラブルのもととなります。

 その上、介護者手帳に書かれたことはやがて思い出に変わり、親が亡くなった後のグリーフケアにもなる。書くことはとても大事なのです。

(図版制作:増田真一)

阿久津美栄子(あくつ みえこ)さん NPO法人UPTREE代表
阿久津美栄子(あくつ みえこ)さん 1967年長野県生まれ。自身の介護の経験から、介護者をサポートするNPO法人UPTREEを2013年に立ち上げる。企業研修も行うほか、2019年にはLINEの公式アカウント「介護あっぷあっぷくん」をスタート。介護初心者向けに、介護の基本的な情報、介護保険の仕組みなどを紹介するほか、チャットボット(AIによる自動応答サービス)も導入している。UPTREEとして、介護の記録をサポートする「認知症の家族のための介護者手帳」も発行。

[日経Gooday(グッデイ)2021年6月11日掲載]情報は掲載時点のものです。

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