UPTREEでは企業研修を行っているのですが、そこで話すのが、「介護休業」と「介護休暇」の違い。ステップ1の混乱期に、「ああ、もうだめだ、自分の時間も取れないし、仕事もできない」と介護休業(対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できる制度)を取る人が多いのですが、そうではなく、初期にはむしろ介護休暇(対象家族が1人の場合、年5日まで休暇を取得できる制度)を使ったほうがいいということです。

 というのも、ロードマップ全体から見れば、介護初期は親が自立した状態で介護できる時期だからです。介護休業は最後の看取り期にこそ使う。そうして、親と一緒にゆっくり過ごすことを勧めています。

介護休業と介護休暇の違い
介護休業と介護休暇の違い
※ほかに、制度を利用できる労働者の条件や申請方法、給付金の有無などの点で違いがある。

介護のゴールを意識することで、どう変わるんでしょう。

阿久津さん 介護のゴールを意識していないと、なんとか生きさせようと、介護者は、介護される本人がやりたくないことまでやらせようとしてしまうものです。時に行き過ぎてしまい、無意識のうちに相手を“支配”するような状況になったりする。なお、介護虐待の加害者は、男性の方が多いことが分かっています(*1)。

*1 厚生労働省による2019年度の「『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」によれば、養介護施設従事者などでは男性が虐待者全体の52.3%、養護者(家族など)では息子と夫が全体の61.5%を占めた。

“よかれ”と思って行うことが、虐待につながるケースも

実際にどのように、親を無意識に支配してしまうのでしょう。

写真はイメージ=123RF
写真はイメージ=123RF

阿久津さん あくまで親を思い“よかれ”と思って行うことが、時にやり過ぎだと後で気づくことがあります。見守りの目的で親の家にカメラを設置する際、心配のあまり、親のプライバシーをあまり考慮せずに台数を増やしてしまったりするケースもあるでしょう。愛情があるからこその行動なのですが、初めての介護では一生懸命であるがゆえに、このような行動をすることがあるのです。

 実は、私が親の介護に入る前に父が母の面倒を見ていた時期があり、そのときの父も、母を無意識に支配しようとする傾向がありました。

 がんを患っていた母が、介助がないとご飯が食べられず、父が毎日必ず病院に行きご飯を食べさせていたときがあるのですが、母はある日、食事を食べたくないと口を開かなくなったんです。でも父は、ご飯を食べなければ死んでしまうと考え、母の口を無理やり開けてご飯を入れ、ぎゅっと口を閉めた。私も違和感を持ちながら、「確かに食べなければ死んでしまうかも」と漠然と思っていたのですが、そんな状態が数カ月続く中、ある日実家に電話すると、父が「今日は満足した」と言ったのです。「どうして?」と聞いたら、父は「母に食事を全部食べさせられたから」と返した。「食べてもらえた」と言うなら分かりますが、「食べさせられた」なんて自分が満足しているだけではないか、と大げんかになりました。

 でも、そこまで極端ではなくても相手によかれと思いやってしまったことは、私だってあります。元気になってほしいからと思うあまり、無理やり自己流のリハビリテーションをするようなこともありました。介護者は独善的にならないよう、気を付けなくてはいけない。だから、親が元気なうちに、どんな介護をしてほしいか聞いておく。特に認知症となると、後から相手の希望を聞けなくなりますから。

次ページ 親が望むことを聞くコツは?