(前回「うつ休職の裏に潜む『大人の発達障害』の可能性」の内容)うつによる休職を繰り返している人の中には、うつの症状が現れるものの、実はうつ病とは別の疾患が背景に隠れているケースが増えています。その一つが「大人の発達障害」です。そこで、前回は「大人の発達障害」がどういうものか、その症状などをお伝えしました。
今回はマンガ家でコラムニストでもあるカレー沢薫さんとのインタビュー対談の模様をお伝えします。

カレー沢さんは、マンガ家やコラムニストの仕事をしながらも「集中力がなく、自分の世界に入りやすい」「集団行動が不得意」「電話で人と話すことが苦手」といった発達障害の困りごとに長年、悩んでこられ、私のクリニックを受診されました。
そして定期的に通院した時の様子や日々の生活の中のエピソードをマンガ『なおりはしないが、ましになる』に描いています。そこで、カレー沢さんご本人にお話を伺いました。
Dr.五十嵐 どうして発達障害のことをマンガに描こうとお考えになったのでしょうか。ご自分の悩みとしてあったことをマンガという形で発表していくというのは、ハードルが高かったのではないかと思います。
カレー沢さん そうですね。ちょうど、出版社の担当編集さんと「新しい連載マンガを始めたいね」ということで、いろいろテーマを話していまして。
実は私は、少し前まで会社勤めをしながらマンガを描いていたのですが、その会社を辞めたことで、自分の発達障害の問題をとても大きく感じることが増えていました。それで、そういう話をしていたのです。
すると、担当編集さんが「ちゃんと病院で診てもらった方がいいのでは」と言ってくれて…。自分でも昔から違和感があり、発達障害なのではないか?とは思っていたのですが、病院で検査を受けようという気持ちにまでは至っていなかったんです。
それで「もしかしたら、それが新しい連載のテーマになるのでは?」と。そう言われて「良いキッカケなのかもしれない」と思いました。
たぶん、自分ひとりだったら、違和感を持ちながらも、このままズルズルと生きていくのだろうという気がしていました。でも、「マンガにする」という動機があれば、公私混同ではありますが、自分の発達障害と向き合うキッカケになるのではないか…。そう考えて、マンガを描こう、と。
Dr.五十嵐 昔から、違和感を持っていたことと、仕事を辞めたこと。それから現在の担当編集者さんとの出会いがあって。この3つが重なったわけですね。そして、それをプラスに転じる機会にしようと思ったわけですか。
カレー沢さん はい。
Dr.五十嵐 その「プラスに転じよう」という発想は、普通はできないのではないかと思います。でも、悩みは悩みとしてあるわけですね。
カレー沢さん はい。
Dr.五十嵐 現在も、マンガは連載中ですが、発達障害だとわかって、マンガという形で表現していって、作品がどんどん生まれるわけですよね。そうしたプロセスについては良かったなと思っているのでしょうか。その辺りはどうですか?
カレー沢さん そうですね。マンガにすることによって、自分でも整理がついていったということはあります。やはり、マンガにする上では、障害のことも「ほかの人(読者)にわかりやすいように伝えよう」と考えるので、そうするうちに、自分の中でもよくわかるようになって。「ああ、こういうことなんだな」という、発見がすごく多かったです。
Dr.五十嵐 なるほど。
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